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【ネタバレあり・レビュー】ある日どこかで

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ストーリー

1972年、大学生であるリチャードは老婆から時計を渡される。
それから8年後、劇作家となった彼は1枚の写真の女性に惹かれる。
それは1911年の女優エリーズであった。
彼女に逢いたい一心でリチャードはある教授が提唱していたタイムスリップを実行に移す。

感想

SF映画というのは、良い作品であればあるほどコアなファンが付きやすい傾向にあります。
本作もその例に漏れず、良質な作品でした。コアなファンが付くのも納得です。
ただ、本作がその他の名作SFと異なるとすれば、あくまでメインテーマはロマンスであることでしょう。
あくまで本作のSF要素―――タイムスリップは時代を超えたロマンスを成立させるための手段でしかありませんからね。


まずはタイムスリップについて、書いていきます。
本作、個人的にはこのタイムスリップの方法が非常に独特であったと思います。
自分の身の回りの物を全て昔の物(行きたい時代の物)で固めて、自身に暗示をかける、なんてこれまで見た事がありませんでしたからね。
とはいえ、妙な説得力があったのも事実。「目が覚めたらいつの間にかタイムスリップしていた」なんてご都合主義な展開よりもずっと引き込まれる設定であったと思います。

この設定がラストにしっかりと生かされるのも素晴らしかったです。
現代のコインを持っていた事から一気に元の時代へと引き戻される展開は、伏線もあったことから予想できたことではありましたが、それでも衝撃を受けました。

このタイムスリップ要素で最も凄かったのが、フィルムの使い分けをしていた事です。
現在の部分をコダック、過去の部分を富士フイルムで使い分けていたとのこと。
私は作品を見る前にこの情報を知ったのですが、「どうせ素人目で見て分かるハズがない」と思っていました。
しかし、実際見てみると結構違う!
特に感じられたのが色合いで、現在よりも過去の方が僅かに色が薄めで優しい感じがしました。
なんだか過去の方は本当に夢の中にいるような雰囲気が出ていて作品にピッタリ。まさに演出の妙でした。
SF要素をただストーリーに組み込むだけでなく、ロマンスの演出にも生かしたセンスには感服しました。


そうしたSF要素がより輝くのがロマンスの美しさと儚さがあったからでした。
1911年という日本人視点から見ても古臭さを感じる文化を背景に、「夢と愛どちらを取るのか」という普遍的なラブロマンスを見せるのは王道的と言えます。
それを演じる二人も素敵でした。
当時、『スーパーマン』で人気を挙げていたクリストファー・リーヴのガタイがいいのに爽やかな紳士的ルックス。ジェーン・シーモアの夢を追いながらも、リチャードに惹かれていき動揺する姿。
初々しくも情熱的な二人の恋路は、見ているだけでももどかしくなるような甘い時間でした。
クリストファー・プラマー演じるロビンソンもまた、いいアクセントになっていました。
二人の恋路を邪魔をするも、逆により熱く燃え上がる着火剤としての役割、それでいてエリーズの将来を誰よりも案じている人間らしさも持っていて、どこか嫌いになれない人物でした。
エリーズの未来を予言し、実際にその通りになっているというミステリアスさも持っており、リチャードがタイムスリップを実現させたことも踏まえるとなかなか考察の余地がある人物のようにも思えました。

そしてロマンス要素で最も切なかったのが、突然二人は別れることとなり、エリーズが死ぬまでリチャードを思い続けていた事でした。
それを冒頭のシーン(リチャードが大学生時代)で既に明らかにしているのですから、ニクい演出です。
私はこのシーン見たさに冒頭だけもう一度見ましたが、意味が分かると凄く感動的。二度、三度と見たくなる伏線が最初から詰め込まれていたんですね。
この作品がいかに、細部にまでこだわっているのかが分かるようでした。


SFとロマンスを上手く融合させていた本作。
ストーリーの奥深さを演出の丁寧さによって、より楽しめるものとしていました。
多くのファンに長く愛されているのも納得の作品でした。