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【ネタバレなし・映画紹介】黄昏のチャイナタウン

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16年という年月はかなりの期間です。
少年少女は大人に、中年は初老に変わります。
街もその姿を変え、あったハズのものが無くなったり長いこと訪れていなかった地が思い出の場所に変わっていたりするものです。
そんな16年の年月を感じさせる作品が、今回紹介する『黄昏のチャイナタウン』です。
1974年に公開された『チャイナタウン』から実に16年の期間を経ての続編となります。


作品概要


原題:The Two Jakes
製作年:1990年(日本公開:1991年)

監督:ジャック・ニコルソン
脚本:ロバート・タウン
主演:ジャック・ニコルソンハーヴェイ・カイテル


ストーリー

1948年、ロサンゼルスで探偵業を営むジェイク・ギテス(ジャック・ニコルソン)は、建設会社の経営者ジェイク・バーマン(ハーヴェイ・カイテル)からの依頼で、妻キティの浮気現場を押さえる。
しかし、バーマンが銃でキティの浮気相手を殺してしまう。
拳銃の出どころなどからバーマンは不起訴処分となる。
しかし、殺された浮気相手のボディーンがバーマンと共同経営者であったことから警察は殺人が計画的であったのではないかと疑い始めた。
裁判の証拠品となる録音テープの提出を求められたギテスであったが、そのテープには彼の過去の事件に関わったある人物の名前が挙がっていた。


オススメポイント

年を重ねさらに魅力を増したジャック・ニコルソン

この作品、主演はジャック・ニコルソンが続投したことから、シリーズを通して見た人はジェイク・ギテスという男を再び見ることとなります。
スーツ姿にオールバック、サングラスに中折れ帽と、彼を象徴するかのようなファッションは、1作目からの期間を空ければ空ける程、懐かしさを感じるかもしれません。
しかし、目に見えて変わったと思えるのがジャック・ニコルソンのふけ具合。
16年の期間もあって、明らかに皺が増えていますし、心なしか髪も薄くなった感じがします。
過去へ思いを巡らせるモノローグもあり、彼の姿から哀愁を感じさせられるかもしれません。
一方、変わっていないのが性格。
聞き込みの相手にズバズバと切り込んでいったり、刑事相手にもケンカ腰の皮肉を言いまくったりするシニカルな性格は、ジェイク・ギテスらしさを感じさせます。
感情を荒げるシーンもありますが、そうした姿を見て感じられるのがギテスの処世術。
ロサンゼルスで探偵業をやっていく内、人に舐められず、精神的にも潰れないためには、彼のようなシニカルさ、図太さが必要なのでしょう。
そうしたギテスの年期を感じさせるニコルソンの演技が、この作品を見る上での見逃せないポイントのひとつだと思います。


黄昏を意識した美しくも儚い映像美

前作よりも色濃く感じられるのが、哀愁やノスタルジーといった感覚でしょう。
それはストーリーや俳優の演技などからも感じられるのですが、一番はやはり映像でしょう。
ギテスがロサンゼルスの町をレトロな車に乗り、あちらこちらへと移動する光景はどこか昔懐かしさが感じられます。
中でも夕暮れ時のロサンゼルスは、作品のハイライトとなるくらいの美しさと儚さをまとった映像美となっていました。
また、作中ギテスはある重要な場所に再び訪れることとなります。
その僅かに残った景観は、前作を見た人ならギテスと同じように過去の出来事を思い出すハズ。
映像美から感じられるノスタルジーは、そのままギテスに対する感情移入につながっており、作品には外せない大切な要素だと言えるでしょう。


新たな事件と過去の清算

本作の脚本は前作同様に、ロバート・タウンが担当。
そのため、事件自体は今作から始まるのですが、物語の核となる登場人物の関係性は1作目を見ていないと分からないかと思います。
そんな新規にあまり優しくない内容ではありますが、逆に1作目を見ていると凄く楽しめます。
ギテスの抱える後悔とそこからくる義務感、街の変化、今回起きた事件との相関関係など、それらが全て必然的な出来事として受け入れることができるからです。
そしてそのカギを握っているのが、今作から登場するハーヴェイ・カイテル演じるジェイク・バーマン。
善人なのか悪人なのか、掴みどころのない人物である彼の行動の意味が全て分かった時のスッキリさは、そのまま脚本の素晴らしさを表していると言えます。
新たな登場人物による新たな事件を描きながらもギテスの過去を清算させる巧みさは、1作目を見た人なら誰しも引き込まれること間違いなしでしょう。


見る前に知っておきたいポイント

この作品を見る前に知っておきたいのは監督について。
前作をロマン・ポランスキーが担当したのに対して、今作では主演のジャック・ニコルソン自らが担当をしています。
おそらくそこにはポランスキーが、ある事をきっかけにアメリカに入国しなくなったことが原因ではないかと考えられます。(「ある事」については『チャイナタウン』の記事で書かせてもらいました)
とはいえ、俳優としてのイメージが強いニコルソン。
監督経験はそれまで皆無というわけではありませんでしたが、1963年の『古城の亡霊』(一部のみでクレジットなし)、1971年の『Drive, He Said』(ニコルソンの監督デビュー作であるものの、日本で見ることは現状不可能)、1978年の『ゴーイング・サウス』の3作品(実質2作)しか手掛けていませんでした。

それだけでも本作に対する並々ならぬ思いを寄せているのが分かりますが、本作を最後に彼は現在に至るまで監督を手掛けていません。どういった意図なのかは本人のみぞ知る問題。けれど『チャイナタウン』のジェイク・ギテスというキャラクターに対して特別な思い入れがあったことは確かだと思います。

ジャック・ニコルソンは引退宣言こそしていないものの、2010年の『幸せの始まりは』以降、映画に出演すらしていません。
そんな彼が監督として、俳優として心血を注いだ一作は、ぜひ多くの人に見てもらいたいですね。

ここからは余談となりますが、2019年11月に『チャイナタウン』をNetflixでドラマシリーズ化するという話題が出ていました。
監督がデヴィッド・フィンチャーということもあって期待していたのですが、これまで一切音沙汰なし。(主演も未定のまま)
ぜひとも実現してほしいプロジェクトなのですが、果たして陽の目を見ることはあるのでしょうか……