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【ネタバレなし・映画紹介】ショウ・ボート(1951)

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昔から多くの人に愛され慣れ親しまれてきた作品というのは、何度も映画化されたりするものです。
今回紹介する『ショウ・ボート』もその内のひとつ。
1926年にエドナ・ファーバーが発表した小説がミュージカル化され、さらには3度に渡り映画化された一作です。
今作は、1929年、1936年を経て製作された1951年の作品です。


作品概要

原題:Show Boat
製作年:1951年(日本公開:1952年)

監督:ジョージ・シドニー
脚本:ジョン・リー・メイヒン
主演:キャスリン・グレイソンエヴァ・ガードナー、ハワード・キール


ストーリー

ミシシッピ川を行く興行船コットンブロッソム号。
その船長であるアンディの娘マグノリアキャスリン・グレイソン)は、賭博師のゲイロード(ハワード・キール)と出会い恋に落ちる。
ある夜、ショーの花形であるジュリー(エヴァ・ガードナー)が「母親が黒人である」という理由だけで船を降りざるを得ないこととなってしまう。
その欠員を埋めるため、アンディ船長は、芸達者でもあったゲイロードをショーの一員として招き入れる。

カラーがもたらす喜びと残酷さ

今作、3度目の映画化における最大の利点がおそらくカラーであることでしょう。
色とりどりな衣装を着たショーの役者たちによるミュージカルシーン、光の当たり具合を駆使してより美しく見せたロマンスシーンなど、カラーで見る喜びを感じられるシーンが多いのですね。
ミシシッピー川をコットンブロッソム号が航行する雄大な映像もカラーであることでひと際その力強さを感じさせていたと思います。

なによりカラーであることで意味を持っているように思えるのが人種差別についてです。
この作品では、白人と黒人の差別について踏み込んだ描写をしています。
その人種の違いというのをカラーによって、より直接的に感じられてしまうようになっていたと思います。一方で、見た目が白人であるにも関わらず「母親が黒人だから」という理由で差別を受ける様子を描いていたりと、その不条理をより強く意識させるのもカラー映画ならでは。
カラーが導入されたことによって、明るいシーンはより楽しめるように、社会問題を取り扱ったシーンはより痛烈でメッセージ性の強いものになっていたと言えるでしょう。
そうしたカラー映画化の利点を余すことなく生かした内容には目を見張るものがあるかと思います。


圧巻のミュージカルシーン

本作の面白さを語る上で外すことができない要素がミュージカルシーンです。
明るく希望に満ちた曲から、捨てきれない愛をしっとりと歌い上げた曲まで、バリエーション豊富。
そこへ、上の方でも書いた、カラー映像の美が生きる撮影手法がとられていることから、見ていて幸福感に満たされます。
また、それを歌い上げるキャスト陣の歌唱力も非常に高い。登場人物が自身の思いを歌い上げた歌詞の奥深さも合わさり、臨場感は凄まじいものでした。
「オールマンリバー」の歌曲は、その最たるシーンでもある
目で見入って、耳で聞き入る幸せな空間を作り上げているミュージカルシーンは、きっと多くの人を虜にすると思います。


一途な思いを描いた王道ラブロマンス

ミュージカルシーンと同じくらい、色濃く描かれているのがラブロマンスです。
むしろ、ミュージカルシーンのほとんどが「愛」をテーマにしているので、ラブロマンスの方がメインかもしれません。
ともあれ、作中ではコットンブロッソム号の箱入り娘マグノリアが、運命の男性と出会ってからの波乱万丈な一途の愛を見せてくれます。
その健気さは、王道的な内容ながらも、ミュージカルの助けもあり心に浸透しやすいです。
また、彼女を支える周りの人々の愛も大切な要素となっており、それがもたらすラストシーンはとても感動的なものとなっています。
メインジャンルはミュージカルとラブロマンスではありますが、ヒューマンドラマと呼べるほど登場人物たちの思いを大切にしていたように感じました。
そうした好感の持てる登場人物が織りなすストーリーにもまた魅力があるのだと言えるでしょう。


見る前に知っておきたい

この作品を見る前に知っておきたいことは作品の歴史について。
原作は、1926年に発表されたエドナー・ファーバーの同名小説。
それから約1年後の1927年にはミュージカル化されました。
「黒人の血が混じっていることから結婚ができない」という差別問題を取り扱っていたのは、当時それが普通として見られていた(実際に法律で禁止されていた)だけになかなかの衝撃を与えたのだとか。
アメリカに根付く人種問題に触れた初めてのミュージカルであったことから、ミュージカル史のみならず、歴史的に有名な作品となったのも納得です。
このミュージカルは527回、24年にも及ぶロングラン公演を行うほどのヒットを飛ばすこととなり、原作だけでなくミュージカルとしても成功を収めることに。

それを受けて、製作されたのが映画版。1929年にこれが実現されますが、当初はトーキーが始まったばかり(世界初のトーキー映画と言われる『ジャズ・シンガー』が公開されたのが1927年10月)ということもあって、一部トーキーで他はサイレントという状態でした。
そのため、当然のことながらミュージカルでもなく、メインとなったのはドラマ要素です。

次に映画化されたのが、1936年版。
トーキーがすっかり主流になっていることから、ミュージカルを本格的に取り込んでいます。ただし、時代が時代だけにモノクロ。
ミュージカルの初演に出演していたオリジナルキャスト、チャールズ・ウィニンジャー(アンディ船長役)、ポール・ロブスン(ジョー役)、ヘレン・モーガン(ジュリー役)をキャスティングしていることからも話題を呼びました。
それだけに、3度の映画の内でも最もミュージカルに近い作品として高く評価されてもいます。
また、1936年版で配給を務めたユニバーサル・ピクチャーズは、社長であったカール・レムリ・Jrの意向で多額の費用を投入。会社が傾くレベルの危機に陥ったのだとか。
この作品が成功を遂げたことで、なんとか持ち直したらしいです。(レムリ家はユニバーサルから追放されました)

そうして今回紹介した1951年版に辿り着きます。
上にも書いたように、カラーが使えるようになったことから「テクニカラー万歳」といわんばかりの華やかさを演出していました。
そんな本作、ジュリー役の選定にかなり困窮したそう。
まず、第一候補となったのは『オズの魔法使』でも有名なジュディ・ガーランドを起用しようとしました。けれど、配給会社であるメトロ・ゴールドウィン・メイヤー(MGM)との契約が切れたこともあり断念。
次に挙がったのが、ジャズシンガー兼俳優でもあるレナ・ホーン。
しかし、彼女はアフリカ系アメリカ人女性。「アフリカ系女性と白人男性の恋愛を映画で見せるな」という風潮が当時は存在したことから選定から外されることに。
そうして選ばれたのが、エヴァ・ガードナーでした。
結果として、ガードナーの演技は多くない出演時間の中でも最も記憶に残るものとなり、その知名度を飛躍的に上げることとなりました。
とはいえ、レナ・ホーンが映画のジュリーと同じような扱いを受けて役を得られなかったことを思うと手放しに喜べないのが悲しい話です。

人種差別問題とは切っても切れない縁のあるこの作品。
その理不尽さを歌った作中の歌曲「オールマンリバー」(Ol' Man River)は、作品を象徴するものと言えるでしょう。
この曲を初め、多くの歌曲を残したジェローム・カーン(作曲)、オスカー・ハマースタイン2世(作詞)の偉大さを噛みしめつつ見たい作品ですね。