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【ネタバレあり・レビュー】ピエロがお前を嘲笑う

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ハッカーというのは人のPCなどに悪意を持って侵入する悪玉です。
しかし、武術に長けていようが権力者であろうが関係なく影から攻撃するそのスタイリッシュさは映画などではダークヒーローのように描かれます。
そんなハッカーたちによる戦いをドイツが描いたのが『ピエロがお前を嘲笑う』です。
今回はこの作品の感想と、ハッキング知識のない我々一般人にどのようにしてその内容を伝わりやすくしていたのかを紐解いていきます。

作品概要

原題:Who Am I - Kein System ist sicher
製作年:1965年(日本公開:1966)

監督:バラン・ボー・オダー
脚本:バラン・ボー・オダー、ヤンチェ・フリーセ
主演:トム・シリング

ストーリー

ハッカー集団「CLAY」(クレイ)のメンバーであるベンヤミン(トム・シリング)は警察に出頭し、ユーロポールの捜査官ハンネから取り調べを受けていた。
ハンネが欲しいのは謎のハッカーMRXを逮捕するために必要な情報であった。
ベンヤミンは「CLAY」結成からMRXに接触するまでについて語り始める。

感想

ハリウッドリメイクの噂も挙がっているこの作品。
確かに、ハリウッド好みしそうな大味なトリックが面白いサスペンスエンターテインメントであったと思います。

一番魅力であったのはスタイリッシュさ。
ハッカーたちのドヤ顔が目に浮かぶようなスタイリッシュな駆け引きを、演出マシマシで見せたのはある意味正解。見ている内に、そのイタイくらいのスタイリッシュさが癖になってきました。

このスタイリッシュさを助けるのがストーリー構成。
冒頭いきなり逮捕されているベンヤミンが回想に入ることで、話の細部がカットされていても違和感がありません。
そのため、スタイリッシュな演出も自然なものとして受け入れることができました。

そんな本作、少し意外であったのがRMXの正体でした。
普通、こうした映画というのはラストあたりで「実は私がRMXでお前たちを騙していた」という衝撃の展開があるものですが、まさかの犯人はどこにでもいるような青年。
まあ、代わりにベンヤミンたち「CLAY」のメンバーがユーロポールハンネを騙すという展開を見せていましたし、面白さとしては差し障りなかったと個人的には思いました。
主人公ベンヤミンがスーパーハッカーばりの活躍をするかと思いきや「CLAY」のメンバー全員に支えられているというのもなかなか面白い見せ方でした。
なんだか凄いハッカーなのですが等身大の青年というのはハッカーを主人公にした作品でも珍しい気がしました。

この作品をハリウッドがいかにしてリメイクするのか興味があるので、ぜひとも製作を実行してもらいたいですね


ハッキングに対するエンターテイメント性

ハッキングとは人の心理に付け入ること

ベンヤミンハッカーとしての大きな変化をもたらすのがマックスとの出会いです。
彼は、ベンヤミンに対してハッキングのなん足るかを説き、そこで話されるのが人の心理に付け入る方法でした。
それは大胆でいること。
その説明としてマックスはドーナツ店に入り、タダで物を手にいれる方法を見せます。
なんともコスい……と思うものの、なんとも分かりやすい。
我々一般市民が利用するような店を例にした解説は分かりやすかったかと思います。
それはのちのち、ベンヤミンが警備員を煙に巻くシーンでも使われ、しっかりと前振りが生きることとなっていました。

ハッキングはそれっぽく

ハッカーたちの活躍を描いていたこの作品。
やはり見所となるのはハッキングシーンです。
とはいえ、ハッキングのコードや専門知識を出されても普通の人間には分かるハズもなく。
そこで本作が取っていたのがそれっぽく見せる手法でした。
例えば、ウィンドウを大量に出してコードが次々に流れていく画面を映していたり、サーバに端末を繋いでなにやら高速でキーボードを打っていたりといった感じ。
何をやっているのかはよく分かりませんが、ハッカーらしさという意味ではイメージとして分かりやすいです。
こうした"ハッカー"という記号としての分かりやすさは至る所で見られました。
ベンヤミンが移動時にはやたらパーカーのフードを被っていたり、何かしら思惑通りにいった時には「ビンゴ!」と言ってみたり、ハッカーのイメージをそのまま具現化したような感じでした。
「実際にはこんな感じじゃないだろ(笑)」とは思いつつも、分かりやすいイメージは作品に没頭しやすいようになっていました。

ダークウェブの世界

この作品の最も画期的であったのは、ダークウェブの世界を具象化していたことです。
地下鉄の車内をダークウェブに見立て、MRXと「CLAY」らのやり取りを再現していました。
情報を渡すシーンではプレゼントを渡す映像で、トロイの木馬に仕込んだ罠がバレるシーンでは落として砕け散る映像といった感じで、視覚的に分かりやすい演出を取っていました。
謎の人物MRXの顔が覆面で覆われているなど、視覚的には楽しむことのできない仮想空間を上手く表現をしていたと言えます。