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【ネタバレあり・レビュー】ザ・バウンサー

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ジャン=クロード・ヴァン・ダムといえば、アクション映画好きであればおそらく誰もが知っているスター俳優です。
格闘家から俳優へ進出したという異色の経歴を持っており、80、90年代のアクション映画界をけん引してくれました。
そんなヴァンダム主演作ということで「見るしかない!」と思ったこの作品。
彼も年(公開時の2018年には58歳)ということで、派手なアクションは期待していませんでしたが、想像以上にじみーな作品でした。
とはいえ、それだけで凡作と位置付けるには忍びないので、作品を振り返りつつ良かった点をピックアップしていきます。

作品概要

原題:Lukas
製作年:2018年(日本公開:2019年)

監督:ジュリアン・ルクレルク
脚本:ジェレミー・グエズ
主演:ジャン=クロード・ヴァン・ダム

ストーリー

8歳の娘を持つシングルファーザーのルカスは、夜な夜なクラブの用心棒として働く日々を過ごしていた。
ある夜、彼は酔っ払いを追い払う際に、彼を事故死させてしまう。
責任を問われクビにされたルカスは、ストリップクラブの用心棒として職を得た。
そこのオーナー、ヤンは警察からマークされていた。
ルカスは警察から、過去に起こした事件を引き合いにだされ協力を強要される。

感想

娘を思う父親の孤独な戦い

「孤高な男による孤独な戦い」
それは80年代、90年代アクション映画のロマンだと私は勝手に思っています。
そんな男の晩年期の姿をそのまま描いたような本作は、個人的には割と好きでした。
派手なアクションもしなければ、大胆すぎる行動もしない、経験則がモノを言うような大人な立ち振る舞いは見方によればイカすものです。

その晩年期を迎えた主人公ルカスが戦いの渦中に巻き込まれることとなる理由が、一人娘を守るためでした。
もはやアクション映画ではお約束の展開。しかし、それでいいんだと思います。
家族を守るという動機に青年も中年も晩年も関係ありませんからね。
そうした戦いに挑むルカスを演じたヴァンダムがまた渋い。
どんな状況にも決して焦らず、どんな状況でも決して屈しない姿は、まさに主人公そのもの。
それでいて、娘のためならば熱くなるのですから魅力的でした。
一人の男として、娘を持つ父親として、それぞれカッコよさがあったのは素敵だったと思います。

ヴァンダムと悪党たち

ヴァンダム演じるルカスが置かれる状況。それが悪党たちによる板挟みでした。
片や裏社会で偽札を取り扱うストリップクラブのオーナー、片やルカスの弱みをエサに偽札情報を流すことを促す悪徳刑事。この緊迫感はなかなかのものでした。
ヴァンダム自身、昔のように無双ができる状態でなく、娘も人質に取られている状況でもあり「一体どうやって解決するんだ?」という興味はそのまま、作品へ没頭することにつながりました。
ストリップクラブのオーナーの指示で汚れ仕事をやりつつ、その情報を刑事たちに流すという展開は、アクション面、サスペンス面両方を抑えており、そこに面白さがあったと思います。
最後には裏切り、裏切られな展開もあって、ヴァンダムもボロボロに。こうした所からも彼の年齢が感じられるようでした。

緊迫感を増す長回しの演出

本作を見ていて、やたらと使用されていたのが長回しショットでした。
普通に歩くシーンはもちろん、アクションシーンでもそれが盛り込まれていました。
作品中盤で繰り広げられる、あるターゲットをルカスが誘拐するシーンなんかは、この演出がしっかりと生きていたと思います。
銃撃戦の緊迫感、ルカスの的確な立ち回りを表現するにはピッタリなこの手法は、派手なアクションがなくてもきっちりと面白さを演出していたと思います。

50歳差の親子の事情

本作を見ていて一番気になったこと、それがルカスと娘サラの年齢差。
作中、ルカスの年齢は明示されていませんが、ヴァンダムの実年齢58歳から考えると8歳のサラとの年齢差はなんと50。
ヴァンダムの実の息子、娘がアラサー(2018年当時、長男31歳、長女28歳、次男23歳くらい)であることを考えてもその年齢差は際立ちます。

では、なぜにこれだけの年齢差がついたのかですが、これはもう憶測ありません。というわけで、ここからは勝手な考察となります。
手掛かりとなるのがルカスの経歴。
作中、彼は南アフリカで要人警護の仕事をしていたと語られていました。
で、南アフリカといえば治安の悪さが有名。世界一治安の悪い犯罪多発都市とよばれるヨハネスブルグもこの国に属しています。
つまり、この国で要人警護をするというのは命がけ+かなり忙しいと言えるわけです。
そのため、ルカスが出会いや結婚といった色恋沙汰に発展するに至らなかったのではないかと考えられます。
というか、作中のルカスの姿を見ているとどのようにして女性と知り合って結婚するに至ったのか想像がつきません。
妻を殺され、その相手を全員ぶっ殺し、ベルギーに国外逃亡とかいう過去も抱えていますし、今作の前日譚だけでもう一本作品が作れそうな設定でした。
なんにしても、およそ50歳差の親子というのは、並々ならぬルカスの過去を想像させる設定であったと思います。