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【ネタバレあり・レビュー】隣のヒットマン | ブルース・ウィリスが越してくる!ヒットマンと歯科医が織り成すハチャメチャコメディ!

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殺し屋=ヒットマンといえば、映画やドラマなどでは珍しくない存在です。
しかし、普通に生きていればそんな人間と出会うことはまずないでしょう。
今回レビューする『隣のヒットマン』では、そんな幻の存在とも言えるヒットマンが突然隣に引っ越してくるという純度100%のコメディ作です。

作品概要

原題:The Whole Nine Yards
製作年:2000年(日本公開:2001年)

監督:ジョナサン・リン
脚本:ミッチェル・カプナー
主演:マシュー・ペリーブルース・ウィリス

ストーリー

カナダ・モントリオールで歯科医を開業しているオズ(マシュー・ペリー)は、妻ソフィ(ロザンナ・アークェット)と姑にいびられ続ける日々を送っていた。
ある日、オズは隣に越してきた男ジミー(ブルース・ウィリス)が、マフィアのヒットマンであったことに気づく。
しかし、ソフィはジミーの居場所をマフィアに密告し、懸賞金を貰って来るように命じた。
渋々アメリカに飛んだオズは、そこで待ち受けていたマフィアのボス・ヤンニと会うこととなる。

ウィットに富んだコメディセンス

冒頭にも書いたように、この作品はヒットマンが出てくるけれどコメディ作品です。
殺しすらもコミカルに変える……それにはかなりのセンスが必要だと言えるでしょう。
その高いハードルをこの作品は超えていたと思います。
個人的に好印象であったのは、下品な笑いを基本狙わず、ヒットマン、マフィア、妻に板挟みにされたオズの必死な姿で笑いを誘っていた事です。
ヒットマンたちの狂った常識に振り回されるオズの姿が上手くハマっていたと思います。

その面白さが生きたのはひとえにマシュー・ペリーの存在があればこそ。
気弱で妻に頭が上がらない情けない男を演じつつ、幅広いリアクション芸を見せ、その存在感をしっかりとアピール。
ちょっとしたマヌケさが逆に愛嬌に思えるようなキャラクターを作り上げていました。

こうしたコメディ要素が面白かったわけですが、たまーにコテコテのギャグ過ぎてくどさを感じるシーンもあったと言えばありました。
まあ、笑いのツボは人それぞれ、全部が全部ツボに入る事なんてことはありえないということですね。

ブルース・ウィリスの存在感

最近だと良作、駄作とわず出演していることのあるブルース・ウィリス
本作は個人的に良作扱いなわけですが、アクションの多さやシーンの多さを見ると、駄作と思う作品とそこまで大差ないように思えます。
では、なにが違うのかというと、ブルースの扱いでしょう。

駄作と呼ばざるを得ない作品では、ブルースを安易に殺したり、悪党にしたりと、インパクトを与えるために彼を使い捨ててる感じがあります。(もちろん例外はありますが)
そこを見ると、本作でも悪党といえば悪党なのですが、立ち位置として魅力的な悪党だと言えます。

ヒットマンでありながら、どこかフレンドリー。かと思えばキレやすく、裏に何か隠しているというミステリアスさはなかなかに濃いキャラです。
そんな危ないヤツが主人公の生死を握っているのですからそりゃ魅力的に思えますよ。
ハンバーガーにマヨネーズを入れただけでウエイトレスにボロクソ言い始める辺りも濃いキャラを感じさせました。

派手なアクションを見せなくとも、濃いキャラと威圧感だけでその存在を残すというのは、ブルース・ウィリスならではの役であったと思います。

まさかの歯科医設定
作品冒頭、主人公オズが歯磨きをしているシーンが強烈なインパクトを残しました。
初めの内はオズが歯科医であることに掛けているだけなのかと思ったのですが、この歯が意外や意外、物語のポイントを握っていました。
死体の歯を加工して、ジミーの死を隠蔽する展開は、ありそうでなかった発送でした。
おそらくありそうでなかった理由は「現実的ではない」だと思うのですが、この作品はコメディ。これくらいぶっ飛んでいた方が楽しめるというものです。
ヒットマンの存在に怯えるオズが、患者に恐怖を与えるというちょっとした笑えるシーンなんかもあって、歯科医が主人公という設定をしっかりと生かしていたと思います。

「歯科医は自殺しやすい」は海外では常識?

この作品を見ていて何度か聞くのが「歯科医は自殺で死ぬ」というフレーズ。
日本ではそうした噂は聞いたことがありません。
これに果たして理由があるのか、少し調べてみました。

この話、やはりアメリカでの通説となっているらしく、その起源はかなり昔のこと。
諸説ありますが、始まりは1920年代にメディアが報じたからなのだとか。
慢性的なストレスが原因で歯科医は自殺率が高いという報道がされたそうです。
1960年代には「2.5倍から5.5倍の自殺率」と明確な数字まで主張されるようになり(出所は不明)、アメリカでは「歯科医=自殺しやすい」という説が一般的なものとなりました。

しかし、その説は現在では誤りとされており、1975年に歯科医師会は調査の結果「歯科医が一般人口より自殺しやすいという説を裏付ける根拠はない」としました。
さらに、この医師会の考えを肯定したのがロジャー・E・アレクサンダー医師。(口腔外科医)
彼は1996年に「自殺率が高いのは現在には適用できない、伝聞、般に根付いた認識、仮定がされており、情報に欠陥があった」としました。
また、2001年に彼は歯科医や他の医療従事者の自殺率が高いのが事実か伝聞かについての論文も発表しています。
一部の専門家たちはそれでも歯科医の自殺率が高いことを主張していますが、結局現在に至るまでそれを裏付ける信頼できる情報はないのだとか。

このように「歯科医の自殺率が高い」というのは、過去に挙がった説が根付いて通説とされてしまった、限りなく誤りに近い説でした。
学術的にそれが否定された現在でもその認識は変わらないままというのはなかなか酷い話。
こうした誤った通説が与えた影響により、精神を病んだ医師も存在したかもしれません。

そんな誤った通説を(おそらく)皮肉る形で本作はそれをネタにしていました。
アメリカ人の歯科医師に対する偏見が見られる、ちょっとしたカルチャーギャップを感じるエピソードでした。