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【レビュー】「IT/イット “それ”が見えたら、終わり。」 怪しいピエロにご用心!

スティーヴン・キングの数ある小説の中でも5本指に入るであろう有名作品がこの"IT/イット"だ。
おそらく、ピエロ=恐怖というイメージを植え付けた原因の一部はこの作品にあるだろう。
そんなこの作品の冒頭は、主人公ビルの弟ジョージがItことペニー・ワイズに襲われ殺されるシーンから始まる。
「子供の死」という、あまりにも衝撃的な始まりは作品に引き込むという意味では成功であった。
しかし、このシーンはネット上ではネタとして扱われている。(たいていはTV版の映像が使用されている)一体、これまで何人のジョージが犠牲になったことか。
こうしてネタとして扱われる理由については、おそらくペニー・ワイズの見た目と言動があるからであろう。
ピエロの見た目は、子供であれば悲鳴を挙げ、逃げ回る恐ろしさを持っているが、大人からすれば「田舎町に現れた変人」にしか見えない。
それに加えて「ハーイ、ジョージィ。プカプカ浮かぶ風船をあげよう」なんていう、今の時代3歳児でも引っ掛かりそうにない言動で罠にはめようとするのだからシュールだ。
こうした、笑いと恐怖の絶妙な配合は作中の随所に見られた。
例えばスクリーンから巨大なペニー・ワイズが飛び出してきたり、例えば水の中から奇声を発しつつ首を振りながら飛び出して来たりなどだ。
映画と割り切って見てしまえば思わず笑ってしまうような奇想天外さであるが、ビルたちに感情移入して見るとこれほど怖いものはない。
そうして考えると、臨場感の高い映画館で見ることが大きな意味を持っていたと言えるだろう。
この作品は、ホラーであると同時に青春物語でもあった。
ビルを初め、はみ出し者7人が"ルーザーズクラブ"と称して、仲間のためにイジメっ子に立ち向かう姿なんかは目頭が熱くなる。
とはいえ、石を投げるのはやり過ぎではないかとハラハラしてしまうのは私が小心者だからなのだろうか。
It(ペニー・ワイズ)との戦いでは、仲間がお互いのために怯えながらも立ち向かうという、いじめっ子とは違う本当の仲間の姿を見せていた。
携帯電話という便利なツールがないことで、彼らの絆の強さをより強く感じさせていたのが良かったと思う。
最後には、7vs1でペニー・ワイズをリンチ打ち破ることで青春映画特有の「一皮むけた成長」を見せるのがまたグッとくる。
7人全員が揃って初めて"ルーザーズクラブ"なのだ。
おそらくではあるが、大抵の人がこの7人の中で一番印象に残ったキャラは、と言われればお調子者のリッチーを挙げるだろう。
日常パートでのバカらしさは当然のこと、ペニー・ワイズからの襲撃を受けている最中も、なにかと笑わせてくれるのは単純なホラー映画にはなかなかない緩衝材キャラであった。
この作品が大ヒットしたのは、そんなリッチーの活躍があったからかもしれない。
ただただ怖がるだけのホラーではなく、どこかクスリと笑えてしまう面白さは普段ホラーを見ないライト層にも受けたのだろう。
ピエロが主役である遊園地のお化け屋敷にでも入り込んだような感覚を与えてくれた。
エンドロールの最後には「It」だけではなく「It Chapter 1」と表示される。
続編に続く粋な演出に、<、映画館で見た当時、テンションが上がったのを覚えている。
続編は27年後になるわけだが、我々がこの作品を映画館で見る機会に恵まれたのは2年後であった。
2年の内に少年たちが中年近い年齢になっているのだから浦島太郎のような気分になる。
しかし、この作品から既に2年経過しているというのが最もホラーなのかもしれない。