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【ネタバレあり・レビュー】堕落の王国

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メキシコといったらタコスやテキーラ、美しいビーチなどの名物、名所が思い浮かびます。
その一方で治安の悪さも有名。
女性が暮らすには危険な場所とも言われています。
そんなメキシコの理想と現実の両方を描いた作品が、今回レビューする『堕落の王国』です。

作品概要


原題:Decadencia
製作年:2014年(日本未公開)

監督:ホアキン・ロドリゲス
脚本:ホアキン・ロドリゲス
主演:ナタリー・ウマーニャ、アレハンドロ・エストラーダ

ストーリー

メキシコでお酒の販売員をしているアナベルは、ある日車に轢かれそうになったことからオスカーと出会う。
顔も良く、性格も良く、お金持ちであった彼に、アナベルはどんどん夢中になっていった。
完璧で恵まれた生活を送る中、彼女はオスカーがある変わった性癖を持っていることに気づく。


ラブロマンスからサスペンスへと展開するストーリー

この作品、序盤から中盤に掛けてはほとんどがアナベルとオスカーのイチャイチャするだけのラブロマンスでした。
ただ、ラブロマンスの基本は抑えており、金持ちのオスカーが見せる羽振りの良さにアナベルがギャップを感じたり、オスカーが抱える過去に何かしら感じ取ったりと、見どころは作っていました。
また、イチャイチャするシーンであっても、メキシコのちょっとオシャレな景観をバックにするようなヴィジュアル的美しさも抑えており、退屈するようなことはありませんでしたね。

そうした甘いラブロマンスの空気が変わるのは後半から。
オスカーの「アナベルが他の男と性行為をしているのが見たい」という発言からだんだんと二人の関係がおかしなことに。
それまで爽やかイケメンだった男が狂気じみた変態に変わるというのは、端から見れば面白いです。
「オスカーを信じたい。けどどう考えてもおかしい」で疑心暗鬼しながらも、アナベルがだんだんと禁断の世界へと飲まれていく様子は丁寧で見ごたえがあったと思います。
そんな本作の見所でもあったエロスについて次は書いていきます。

シチュエーションが燃えるエロティックな展開

エロス映画の醍醐味といえば男女が情事に及ぶシーン。
そんなイメージがありますが、本作はそこまで生々しい表現はなかったと思います。
年齢制限がR-15となっていることからもその認識は間違っていないのでしょう。
しかし、生々しさこそなくてもエロス映画の最低限の魅力は表現されていました。

その大事な要素のひとつ、行為に及ぶシーンのヴィジュアルについて。
他のエロス映画がやっているように、本作でも行為に及ぶシーンで一種の芸術性を尊重。
影の付け方や、照明の色使いなど、工夫を施してあるのは良かったと思います。
上に書いたように、そこまで生々しさがないというのも芸術寄りに見せたかったからなのかもしれません。

こうした中で、個人的に魅力的に思えたのがシチュエーション。
もともと清純で真面目であったアナベルがオスカーの要求に応じる内に、それまでの人生では体験し得なかった背徳の世界へ足を踏み入れていく流れは秀逸でした。
特に魅力的であったのは仮面舞踏会のようなシーン。
アイズ・ワイド・シャット』的なエロスを感じる仮面舞踏会のシーンは、いい意味で卑猥です。
自らの素性が分からないのをいいことに、普段やらないようなことをしてしまう背徳的な行為は、直接的な表現よりもエロスがあったと思います。

堕落した先に待つ結末

この作品、ラストになかなか強烈なものがありました。
オスカーに騙され他の男と性行為をさせられたアナベルは誰とも知らぬ男の子供を妊娠。その現実に絶望した彼女が自殺してしまうという最期は本当に救いがありません。
さらに痛々しいのが残された遺書。「これは貴方がもたらした結末」とオスカーを呪うかのような文面は、事実ではあるもののかなりの重苦しさを感じさせました。

とはいえ、それがメキシコでは起こりうる危険なのだという事を痛感させるにはこの描き方は効果的であったかと思います。
少なくともこの作品において最も印象に残り、ただのエロス映画になっていなかったのはこのラストがあればこそ。
後味は悪いですが、考えさせられる結末でした。