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【レビュー】幽霊と未亡人(ネタバレあり)

幽霊と人間の恋と聞くと、おそらく多くの人が『ゴースト/ニューヨークの幻』(1990)を思い浮かべるでしょう。

その斬新なラブロマンスは、感動とときめきを与えてくれました。

しかし、それからさらに遡ることおよそ40年。

1947年に幽霊と人間のラブロマンスを描いていた作品が今回レビューする『幽霊と未亡人』です。


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本作はタイトルからも分かるように、主人公であるルーシーは夫を亡くした未亡人です。

夫の死から1年が経ち、継母とその娘が暮らすロンドンから港町ホワイトクリフへと引っ越します。

そこで、幽霊の出る家"カモメ荘"なる邸宅に暮らすようになるまでが話の導入です。

 

そんな幽霊と未亡人によるラブロマンスが、本作のメインテーマでもありました。

あらすじだけ聞くとあたかもルーシーが死別した夫と再会する、それこそ『ゴースト/ニューヨークの幻』を思い起こさせる内容なのですが、夫が全く無関係であるのが驚きです。

 

では、相手は誰なのかというと"カモメ荘"を建築し、住んでいた船長であったダニエルでした。

皮肉屋で傲慢な性格でありながらも、死因がヒーターのつけっ放しによるガス中毒死というおっちゃこちょいな一面も持っている男です。(しかも周りからは自殺と思われています)
むちゃくちゃ通る声と、髭が印象的なおっさんでした。

 

そんな一癖も二癖もある人物だけに、ルーシーとは初めの内、打ち解けることが出来ません。

というか、ルーシー自身も結構な癖のある性格をしており、不動産屋に散々曰く付きだと言われている"カモメ荘"に対して「幽霊が出るの?興味深い所ね!」と、自ら進んで借りていました。

幽霊であるダニエルと初対面の時も「幽霊なんて怖くないわ!」と、強気な態度を取っており、あくまで対等な関係を維持していたのが印象的です。

 

そんなわけで、打ち解けられない二人なのですが「"カモメ荘"が好き」という共通点から共同生活を始めることに。

赤の他人であった男女がひとつ屋根の下、生活出来たのはダニエルが幽霊であったからこそでしょう。

いくら"カモメ荘"を愛する二人とはいえ、生身の男女が同棲してたらふしだらな女とか噂が立っちゃいますからね。

 

この、ルーシーにしかダニエルが見えていないというのもポイントでした。

この特徴を生かして、ダニエルはルーシーを様々な外敵から守るんですね。

例えば、寄ってくる男を撃退したり、継母とその娘との縁を切らせたりといった感じです。

若干、(というか8割がた)独断と偏見が入り混じっていましたが、ルーシーを想っているのは伝わってきましたね。

また、継母たちの来訪時、姿の見えないダニエルとルーシーが会話しているのを見て、彼女が精神的におかしくなったと思う展開はコメディらしさもありました。今となっては幽霊映画のお約束。

 

で、二人の関係が一気に縮まるのが、生活費を稼ぐためにダニエルの半生をルーシーが代筆するようになってから。

「これが本当のゴーストライターか……」なんてくだらないことを考えながら見ていましたが、このシーンは本当に大事なシーン。

船乗りの性とダニエルの船乗りたちに対する敬意を持った態度は、なるほど確かにカッコイイです。

ルーシーが恋心に気づきながらも、相手は幽霊であるだけに何も出来ないのがもどかしいばかりでした。

 

このように、ラブロマンスにありがちな関係に溝ができる展開もダニエルが幽霊であることが起因していました。

ルーシーが偶然出会った男フェアリーといい感じな雰囲気を漂わせているのを見て「生きている男がいいんだな!」とダニエルが嫉妬したり、それがきっかけで仲たがいをしてしまいダニエルがルーシーの前から姿を消したり(物理的に)と、幽霊であることを最大限に生かした恋の駆け引きを見せていたのが面白かったです。

ラストシーンでは、死=終わりとしてではなく、再会として描いており、死んでしまうことや幽霊になってしまうことよりも、孤独であることの方が不幸であることを描いていたのが印象的でした。

 

全体を通して、CGが主流でもない時代だけあって基本的にダニエルは他の人間と同じようにしか見えません。

けれど、常に暗闇や死角から現れたり、ルーシーとは肉体的接触をしていなかったりと、そうした「CGがないからこその努力」が見れるのは昔の映画の良さであったと思います。

どうやったのかは分かりませんが、ダニエルが半透明になって消えていくシーンなんかもあって(コマ送りで背景のシーンと同化させた?)、力の入りようが窺えるのが良かったです。

 

昔の映画でありながらも斬新な設定を取り入れ、それを最大限生かそうとする姿勢に感服させられる作品でした。