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【ネタバレあり・レビュー】マンディ 地獄のロード・ウォリアー | 狂気に溺れ、血にまみれ……こんなニコラス・ケイジが見たかった!

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「復讐」それは過去から現在まで、多くの人間が行ってきたであろう罪深い行為です。
しかし、映画ではそれをテーマに、痛快なアクションを見せたりするのですから面白いものです。
今回レビューする『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』では、その復讐心が生み出す狂気が見所になっています。

作品概要

原題:Mandy
製作年:2017年(日本公開:2018年)

監督:パノス・コスマトス
脚本:アーロン・スチュワート=アーン
音楽:ヨハン・ヨハンソン
主演:ニコラス・ケイジ

ストーリー

1983年、カリフォルニアの郊外。
森林伐採を職としているレッドは、妻マンディと慎ましくも幸せな日々を送っていた。
しかしある日、カルト教団たちがレッドらの住居に押し入り、マンディを殺してしまう。
怒りに燃えるレッドは、事件に関与した者を皆殺しにすべく立ち上がる。


ニコラス・ケイジの本領(?)発揮な役どころ
ニコラス・ケイジの当たり役を久しく見ていないな」と思っていた近年。
口コミでこの作品が当たりだと聞いて鑑賞をしてみました。
なるほどたしかにニコラス・ケイジが凄い作品だ……!

彼の役どころは、妻をカルト教団に殺され、復讐に目覚める男レッド。
それだけ聞くと、多くのアクション映画に出演してきたニコラスなら一度は同じでないまでも近しい役を演じてそうなものです。
しかし、本作はそのどれとも違いすぎました。

まず、彼は特に何の力も持っていません。
軍上がりではないし、大量の武器を持ち合わせているわけでもない、ましてや悪魔と契約して炎を噴く骸骨にも変身をしません。
あるとするなら妻マンディに対する愛くらい。そのため、カルト教団に妻を殺され、自身も彼らの気まぐれで生き残ることしかできません。

一つ目の見せ場がここ。
妻の死を前に何も出来なかった無力を嘆く男の悲壮感をこれでもかと表現。
トイレでスピリタスをあおりつつ、泣きわめき、喉を焼くその姿は、正直引くくらい渾身の演技でした。ガチで家族を殺したのかと思うくらいの暴れっぷり。

で、二つ目の見せ場がここから。
妻を失ったレッドは復讐に命を燃やす存在に。マイボーガンを入手し、戦斧を自作し、単身殺人が趣味のバイカー共に特攻を仕掛けます。
それだけでもなかなかに狂っていると思いますが、その入れ込みようがさらにヤバい。
転倒したバイカーに叫びながら車ごと突っ込んでいくわ、敵の喉を引き裂いて噴き出した血を浴びながら笑うわ、とにかく狂気染みています。

ただ、それを違和感なくやって遂げるのがニコラス・ケイジという男。
狂気が似合う……というと誉め言葉になるのか分かりませんが、クレイジーな演技が嫌に様になるんですよね。
それはおそらく、彼がそれまでのキャリアで善玉から悪玉まで多くの役を演じてきたからこそなのでしょう。
改めてニコラス・ケイジって凄いと思いました。

感傷的でありながらクレイジー。そんな彼の表現力の凄まじさは「怪演」と評するほかないものでした。


洗練されたる禍々しきヴィジュアル
この作品、苛烈な復習劇やニコラス・ケイジの演技力に意識が向きますが、ヴィジュアルが作り出す世界観もまた素晴らしいです。
例えば、パンクなファッションを着こなすレッドとマンディであったり、『マッドマックス』に出てくるかのようなイカした風貌をしたライダーたち、チャールズ・マンソンを思わせるカルト教団たちなどなど……
パッと見、ひと昔前の流行を思わせるヴィジュアルは、なんだか昔のホラー映画を見ているかのような懐かしさすら感じさせました。(舞台は1980年代らしい)

で、それらはレッドとバイカーたち(あとカルト教団)を殺すシーンでも発揮。
血のりがドバッーと溢れ出たり、首がゴロンと転がったりといった表現はいかにも昔のホラーっぽい。
冷静になって見ればチープな表現かもしれませんが、そうした古臭さが逆にロマン心をくすぐりました。汚いのもまた魅力となるのがホラーのいいとこです。

他にも、レッドがマンディの死を嘆くトイレの壁紙がうるさいくらいの柄であったり、薬物を注入されたマンディが見ている風景を再現したりと、視覚的に楽しめる要素が満載。
レッドやマンディと同じように、狂気の世界に吞み込まれていく心地で作品を見ていられました。


超楽しいクレイジーな戦い
この作品、面白さの大半をこの要素が握っているかと思います。
噴き出す血、響き渡るレッドの唸り、チェーンソー同士がぶつかる火花、誰もが心の奥底で求めていたクレイジーさがそこにはありました。

そこに理屈なんて必要なし!
ボーガンで射抜かれたのにピンピンしているバイカー、投げた戦斧が頭に突き刺さる超展開、突然「俺がお前の神だ」と言い始めるレッドの異常性、全部本能的に楽しんでしまえばいいのです。
前半にマンディ殺害という劇薬をキメてしまっているんですからレッドと共に狂ってしまうのが正解なのだとしみじみ感じます。

そして気づいたのが、ニコラス・ケイジの適切な使い方。
ボロボロになってもグチャグチャになっても戦い続ける泥臭さ、それこそが私が求めていたニコラス・ケイジ像なのです。
オシャレに年を取る必要なんてなくって、いつまでもモッコリブリーフを着ていても様になるオジサンでいて欲しいと思いました。
狂ってなんぼのニコラス・ケイジ万歳です。