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【レビュー】悪の偶像(ネタバレあり)

人は車に乗るかぎり、交通事故を起こしてしまう可能性が常にあります。

もし、起こしてしまった場合、普通は警察救急車を呼ぶでしょう。

しかし、まれに轢き逃げをしてしまう者もいます。

今回レビューする『悪の偶像』は、轢き逃げ事件を権力でもみ消そうとしたことで、とんでもない事態に発展してしまう作品です。


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この作品、あらすじだけ見ると政治家が権力を使い息子の起こした轢き逃げ事故を隠ぺいしようとし、遺族の家族がそれに反発するという、日本でも見たことあるようなサスペンス映画です。
実際、やっていることはそれに近いのですが、本作の歪んだ作風には圧倒されるばかり。
生々しい死体に、暴力的な言動、血なまぐさい展開が次々と巻き起こり、エスカレートしていく流れには目が離せませんでした。
これぞまさしく韓国ノワール映画と呼べるでしょう。

 

で、それが加速するのが事故の唯一の目撃者である移民のリョナを市議会議員であるミョンヒと遺族の父親ジュンシクがそれぞれ探し始めてから。
そこでジュンシクは、リョナが異常な性格を内に秘めていることを知ります。
一方、リョナを見つけたミョンヒは彼女を監禁したあげく、その手がかりを掴んだ男を口封じのため殺してしまうんですね。
轢き逃げ事故をめぐる話であったとは到底思えない展開に「なんじゃこりゃ」と困惑せずにはいられませんでした。

 

終盤にかけてはもっとその困惑が増していく展開が待っていました。
妊娠しているリョナを救いたいジュンシクは、ミョンヒからの示談を受け入れ、一連の轢き逃げ騒動は解決……かと思いきやリョナが自分を貶めた人間への復讐を始めて死人がドバドバ出始めます。
彼女自身を殺そうとした男、その目撃者の同僚、出生について悪口を言ったミョンヒの母親を次々に殺害する異常さにはただただ恐怖するしかありません。
もちろんジュンシク本人にも妻を巻き込むというえげつない形で傷を追わせますし、ジュンシクには彼女の罪を全部押し付けるという全方位攻撃でした。
作中、リョナの姉(異父姉妹)が「リョナは怪物」という風に言っていましたが、まさにその表現がピッタリ。
たしかに本作に登場するキャラクターはほとんどゲスい人間ばかりでした。
それでも、流石にあそこまでの制裁を受けるとなると同情せざるを得ない結末でしたね。

 

こうして見ると分かるように、本作は良くも悪くも不安定な映画でした。
それは作風にも表れており、狂気染みた行動を取るキャラクターばかりなのに、その行動の理由について明確な説明がないのがそれに当たります。
そもそも冒頭からジュンシクの「息子の自慰行為を手伝ってたのが唯一してやれたこと」なんてモノローグからして、結構おかしな始まり方でした。
しかも、後々(上映後2時間くらいして)「パイプカットしていた」なんて事実も判明しますし、意味深な表現が多かったです。
おそらく何度も見て不明点を紐解いていけば、理解できるのだと思いますが、私の読解力では一度で全ての意味深な謎を読み解くのは無理でした。
まあ、それを抜きにしてもノワール要素で「ヤバイことが起きてる!」という楽しみ方はできたので不満はありませんでしたが。

 

轢き逃げ事件から全てが始まり、血なまぐさい結末へと向かっていった本作。
これまで見た轢き逃げを権力で封殺するような作品ではまず見らないような残虐な展開は、韓国ノワールでしか見られないある意味面白い作品でした。