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【ネタバレあり・レビュー】アバンダンド 太平洋ディザスター119日 | これってホントにサバイバル?奇跡だらけの119日間!

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海洋サバイバル映画といえば、実話、フィクション問わず、大抵の場合かなりの苦境に陥るものです。
その日数が長ければ長いほど、その苦境は増していき、見るに堪えない惨状に心が痛くなります。
そんな固定概念を覆すのが、今回レビューする『アバンダンド 太平洋ディザスター119日』です。
119日にも及ぶサバイバルを大きな犠牲も出さず過ごした4人の男たちの実話となっています。

作品概要

原題:Abandoned
製作年:2015年(日本未公開)

監督:ジョン・レイン
脚本:ステファニー・ジョンソン
主演:ドミニク・パーセル、ピーター・フィーニー

ストーリー

船乗りのジョンは自作のヨットにより、ニュージーランドからトンガまでの南太平洋横断を計画していた。
その船員としてジム、リック、フィルの三人を乗せ、ヨットは太平洋へと漕ぎだした。
しかし、自身のヨットの力を過信したジョンは嵐の中へと突入し、結果としてヨットを転覆させることとなった。
さかさまになった船内に取り残された4人は、太平洋でのサバイバルを強いられることとなる。

史実だからこそ綺麗に始まり、綺麗に終わらない物語

できる事を増やしていく少し楽しそうなサバイバル
サバイバル映画といえば「間違ってもこんな目にあいたくない」と思いながらいつも見ている気がします。
最終的に助かる映画でも、その過程となるサバイバルは苦しいので当然といえば当然ですね。

ただ、本作はそうした思いがあまりしませんでした。
たしかに、太平洋で辺りに何もない絶望、水がないことによる脱水症状など、状況としてはかなり過酷。
しかし、他のサバイバル映画と比べるとかなり恵まれた条件にいたように見受けられました。
例えば水が無くなれば雨が降りますし、魚が浸水した船内を泳いでいて捕まえられるといった感じ。
とはいえ、それらの食料や水を得るためにジョンたちが努力をしていたのも事実です。
雨水を得るために船体に雨どい的な溝を作ったり、魚を捕まえるための網を自作したりと、出来得る限りの努力を見せていました。

で、この出来得る限りの努力がなんだかワクワク感を煽っていました。
水没しかけの船の中を板を張り合わせて寝床を作ったり、外には船体を足場にした釣り堀を作ったり、色々自作をしており、秘密基地でも作っているかのようなワクワクがあったんですね。

しかもそれが成功しまくるという奇跡。
魚を大量に釣り上げるだけでなくアホウドリまで捕まえて、食には困らない状況を確立できてしまうというのはサバイバル映画ではなかなかお目に掛かれない光景でした。
本人らも結構ノリノリでサバイバルをするようにもなり、「2,3日くらいなら滞在してみたい」と思える、ちょっと過酷なアウトドアくらいのノリは見ていて楽しかったですね。

楽しむべきはギスギスした関係?
こうした楽しいサバイバル要素が見られる一方で、まったく進展を見せないのがメンバーの関係でした。
基本的に騒ぎを起こすのはリックなわけで、その理由は終盤で病気による痛みであったことが判明します。
ジムやフィルのちょっとした行動にキレたり手に負えない男として描かれていました。ただ、個人的に一番問題あったのはジョンだったように思いました。
ヨット転覆の原因を作り、転覆したヨットに傷を付けることを嫌い、やたらと仕切りたがり、なにかあれば神への信仰を押し付けてくる―――そんなウザい行動の数々は、リックがキレるのも仕方がないように思いました。

最終的に助かった4人は喜びもあってか、上辺だけは仲直りと変わらぬ友情を約束しますが、ジョンのモノローグでそれもかなわなかったことが明らかに。
彼は他の3人とは違い、帰る家(船)を無くしており、なんだか最後の最後までリックたちとは分かりあえなかったように感じられました。
とはいえ、サバイバル状況下での行動を見ていると、そこまで感情移入できる人物でもなかったので「へーそうなんだ」くらいの感情しか沸かなかったですけどね。
リアリティを追求したからこそあの人物が生まれたのか分かりませんが、多少脚色してでももっと好感の持てる人物にすれば良かったと思いました。

史実だからこそ残るモヤモヤ感
この作品、サバイバル映画ではあるのですが、救助されてからもドラマがありました。
それが、4人の遭難が話題集めのための偽装であったのではないかという疑惑でした。
これ、トントン拍子で上手くいくサバイバル要素に比べると、皮肉にも実話らしさがあったと思います。
色々と上手くいきすぎていましたからね。水を得るにしても食料を得るにしても。
一部始終を見ていた身としても「なるほど確かに」と思わざるを得ない疑惑です。

で、このドラマが印象に残るかといったら意外とそうでもありません。理由はもの凄く淡々としているからです。
「偽装の疑いがあります」→「調査したら事実でした」という、4人の言い分や苦難は大して描かずあっさり事実として認められるという味気なさ。
実話の体を壊さないのは良かったのですが、ドラマチックさがなさ過ぎて「なんのためのパートだったんだ……?」と、モヤモヤを残す形で終わってしまったように思えましたね。



4人が旅した航路について

この作品、あらすじにも書いたように、4人はニュージーランドからトンガという場所までヨットで向かうことにしていました。
しかし、ニュージーランドは分かってもトンガがどの辺なのかは分からない……そのため、備忘の意味も込めて調べてみました。

まず、ほとんどの方は知っているかと思いますがニュージーランドの位置。
日本の南、オーストラリアより南東側へ少し行った辺りにあります。

では続いてニュージーランドのどこから4人が出発したかについて。
これは作中では語られていませんでしたが、史実という事もあって場所は特定できます。
それはどこかといったら、ニュージーランドのピクトンという町。ここから南太平洋の海を渡って彼らはトンガを目指しました。

で、実際にたどり着いたのはまさかのニュージーランド北にあるグレート・バリア島でした。
たしかにこんな奇跡があるかと疑いたくなるのも無理はないかと思います。

さて、では彼らはどのような航路を取ってしまったのか。
史実であるだけに、その調査はされていました。
で、その経路が以下になります。(手書きです)

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まあ、ものの見事に迂回をして戻ってきたわけです。
とはいえ、一度は南太平洋へと進出していることもあり、戻ってきたとは思わなかったのも納得といえば納得です。
これがもし東側(南アメリカ大陸)に流され続けていたらと思うとゾッとしますね。十中八九助からなかったでしょう。
ニュージーランドから出発して漂流したあげくニュージーランドに帰り着いた」というのはマヌケにも聞こえる生存劇です。
しかし、一歩間違えれば死もあり得たことを考えるとやはり彼らはツイていたというしかありませんね。