スキマ時間 DE 映画レビュー

【レビュー】アップグレード(ネタバレあり)

SF映画において、AIはたいてい敵となる存在です。
便利すぎる力は時に危険であることを表現するためなのか、はたまたその方が刺激的で意外性があるからなのかは分かりません。
とはいえ、本来なら人の生活を便利に手助けする存在です。
そんなAI技術をもし人間の体に移植したら……?
そんな夢のようで、あり得そうなSFを実現させたのが、今回レビューする『アップグレード』です。

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ストーリー

自動操縦の車が事故を起こし、そこへ現れた謎の集団によって妻を殺されたグレイ。
彼自身も、謎の集団による襲撃で四肢麻痺となる重傷を負っていた。
苦しむグレイに、過去に仕事で知り合った最先端技術を有する男エロンがある提案をする。
それは、四肢麻痺を直すため、彼にAIチップを移植するという話であった。

【感想】斬新すぎる動きがいっぱいAIアクション!

この作品、もともと劇場で見るつもりで前売り券まで買っていました。(ネットで)
しかし、自分の住んでいる地域では公開されていないとかで見れなかった作品です。
今回は、現在公開中の映画『透明人間』が本作と同じ、リー・ワネル監督ということもあって便乗して見ました。
その感想としては、やはり劇場で見たかった!ということです。

そう思わせた最大の理由が、アクションの見ごたえでした。
本作、主人公グレイがステムという高性能AIチップを体に埋め込んだことから、彼自身には到底できないようなアクションを見せます。
そのロボットのような動きをしたアクションがすごい!
まるで、本当に高性能AIが相手の動きを読んでいるかのように的確に攻撃をかわし、ダメージを与えているんですね。
さらに、演出としてカメラがグレイの動いた方向に傾いたりする(例えば体を90度曲げて攻撃をかわしたらカメラも90度横を向くといった感じ)のが斬新。アクションシーンをより盛り上げていました。(SEの機械音も良かったですし)
また、ホラー映画業界に精通したリー・ワネルが監督を務めているからか、その殺し方が結構エグイのが多いです。
そのグロさは、慈悲も躊躇も一切ないステムの無機質さを感じさせると同時に、リー・ワネル監督に惹かれた一部のホラーファンを楽しませたのではないかと思います。
こうした、斬新スタイリッシュアクションは、ぜひとも劇場のスクリーンで堪能したかったですね。

本作において他にも面白いのが、グレイとステムの関係。
ステムはあくまでグレイの体に埋め込まれたチップにしかすぎません。
そのため、彼を助けるためにアドバイスや荒事の対処などしてくれるんですね。
その力にグレイが調子に乗って「俺は忍者だ!」とか言ったりするのは笑えました。
とはいえ、ステムが密かに画策していた「肉体乗っ取り計画」が本作のどんでん返しでもあります。
友人のような関係になりつつあった二人なのに、実はグレイはただの操り人形だと分かった衝撃は、ショッキングながらも「騙された!」と思いましたね。

とはいえ、よくよく考えてみるとグレイは最初から最後までいいように転がされているんですね。
序盤では「機械になんでもさせたら人間の出来ることがなくなる」と、機械には否定的な反応を見せていました。
しかし、ステムの便利さを知ってからは二言目には「ステム、頼むぞ」なんて言っているのですから滑稽です。
機械に何もかも奪われるという、最もなりたくないと思っていた立場に彼自身がなってしまっていたのですから皮肉な話でした。
しかも、それに気づかずに精神世界に引きこもって幸せだと錯覚しているのですから、なお酷な話ですよ。

そんな、主人公が敗北するエンディングを迎える本作ですが、不思議と嫌悪感はありませんでした。
もし、どこか近くの劇場で再上映があるならおそらく見に行くくらいにはまた見たいと思わせてくれました。
その最大の理由はやはり「騙された!」という痛快さがあるからだと思います。
同じリー・ワネル監督が脚本を手掛けた『SAW』なんかもでしたが、綺麗などんでん返しってバッドエンドでもまた見たくなるんですね。
本作でも上に書いたように、だんだんとステムに依存し始めるグレイの姿や明らかにエロンに容疑の目を向かせるミスリードなんかは、その結果を知っていても丁寧な作りで見ごたえがあります。
そこへ例のアクションシーンが加わるのですから、一回見てたからってなんだという話ですよ。むしろ、劇場で見れるなら二回目を見たいくらいです。
自分がダークなSFがジャンルとして好きなのもあるとは思いますが、こうした感想を抱いた人はおそらく少なくはないでしょう。

というわけで、ぜひ再上映をしてもらいたいです。できれば全国的に。
そうなると、リー・ワネル監督の知名度がもっと上昇する必要があると言えるでしょう。
『透明人間』でも、その知名度を高めていますし、今後も彼の監督する作品には期待していきたいですね。

【レビュー】ポセイドン・アドベンチャー

「豪華客船が転覆する映画」と聞くと、おそらく真っ先に思い浮かぶのは『タイタニック』でしょう。

しかし、その『タイタニック』に劣らない知名度の「豪華客船が転覆する映画」があります。

それが今回レビューする『ポセイドン・アドベンチャー』です。


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感想

テレビでもDVDでも劇場(午前十時の映画祭)でも見たことがあるこの作品。

やはり一番は劇場ですが、テレビで見るのもまたオツなものです。

何度見ても楽しめるのは、やはり本作が名作であるからでしょう。
圧巻の転覆シーン、迫るタイムリミット、こじれる人間関係……
そうした、リアルな状況の中、繰り広げられる脱出劇には目が離せなくなります。

 

そして、毎回感心させられるのがスコット牧師のまっすぐな信念です。
本来、牧師という立場でパニックに巻き込まれれば、自分のため他人(ヒト)のため神に祈るのが普通でしょう。
しかし、スコット牧師は型破りな性格をしており「祈りなんて届かない!運命に立ち向かうんだ」という考えをしていました。
そのため、作中一度として譲らないしブレることがありません。
それだけに、彼が最期に神に対して「助けてくれとは言わない!邪魔をしないでくれ!」という憤りの声は心に刺さりました。
迷いなき姿と型破りな性格、そしてみんなを引っ張るリーダー気質の頼れる存在は、スコット牧師のことを好きにならずにはいられませんでしたね。

 

もう一人、魅力的なキャラクターであったのが警察官のロゴでした。
警察官とは思えぬ横暴さと口の悪さからスコット牧師とは何度も衝突をしていました。
とはいえ、彼の立場は結構重要。
脱出劇なのにイエスマンしかいないとあまりにも都合がよすぎるように思えてしまいますからね。
ロゴを通して、その別の道が間違いであったということが示されていたように思います。
そんな、プロレスでいうヒール役のような存在であるロゴではありますが、個人的にはやっかいな奴であっても嫌いにはなれません。というのも、なんだかんだでスコット牧師に従っているし、なにより他の乗客を助けるためにことあるごとに頑張っていたからです。文句はいうけれど、助かるための協力はしっかりする、そんな姿を見せられれば、嫌いになんてなれるわけがありませんでした。

 

本作のキャラクターがこうして魅力的になっているのは、転覆までの何気ないシーンのおかげだと思います。
というのも、初めて見た時には気づきづらいのですが、転覆までの導入(だいたい20分くらい)の間にスコット牧師初め、脱出組のそれぞれ生き残らなくてはならない理由をちゃんと描いているんですね。
そんなものを見せられれば、転覆後からはほとんどパニックに翻弄されているだけ、というキャラクターでも応援したくなってしまうのが人間の情というもの。
感所移入しハラハラドキドキできるのはこうしてキャラクターがしっかりと根付いているからなのでしょう。

 

そうした「人」に対するこだわりは然ることながら「もの」に対するこだわりもしっかりとしていました。
中でも目を引いたのが、180度回転した船内の状態でした。
序盤に見られる通常状態の豪華客船の船内だけでも「しっかり作りこんでるなぁ」と感心できるのですが、転覆してからはそれが全てさかさまに。
その作りこみはただスコット牧師たちが歩いているだけでも、そのあべこべさにワクワクさせられました。
また、彼らが脱出のためにいろいろな部屋を通るというのも魅力的。
大ホールのパーティ会場から始まり、厨房、廊下や階段、エアシャフトに機関室と、アドベンチャー感がハンパないです。
死が間近に迫っていない状況であるなら、実際に見て回りたいと思える素敵な空間を作り上げていました。
で、これらをCGなしで仕上げているのですからまたすごい話です。
本物の船っぽさが感じられるセットの作りを見ると、なにもCGがあるからクオリティが高いというわけではないのだなとしみじみ感じさせられました。

 

沈んだ豪華客船を舞台に、人の生きる力強さを見せてくれていた本作。
その一方で、命の掛かった状況なのに、不思議とワクワクも感じられたのも事実です。
命の掛かったハラハラと、冒険をするワクワク。その両方を感じさせるのですから『ポセイドン・アドベンチャー』というタイトルは秀逸だと言えますね。

【レビュー】透明人間(2020)(ネタバレあり)

透明人間といえば、人類のロマンです。
もし、姿を消すことが出来たら、誰に何をしようかと、おそらく多くの人が昔から考えてきたことでしょう。かくいう私もそのうちの一人です。
そんなある意味親しみやすい題材だけに、古くから映画やその他創作物のネタとされてきました。
最古の映画が制作されたのは1933年。それから87年の時を経て、現代によみがえったのが、今回レビューする『透明人間』です。


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ストーリー

恋人エイドリアンの行きすぎた拘束に、恐怖を感じたセシリアは彼の家から脱出する。
それから数日間、妹のエミリーとその恋人ジェームズに匿ってもらいながら、彼女は外に出ることもできない生活を送っていた。
そんなある日、エイドリアンが自殺したという知らせが入る。
彼の死に疑心暗鬼しながらも、元の生活に戻り始めるセシリア。
しかし、彼女の周りで不可解なことが起こり始める。

感想

ぶっちゃけた話、本作が公開されることを知った当初は「今さら透明人間?」という思いがありました。
とはいえ、監督・脚本がホラー界の注目人物リー・ワネルでもあることから見ることに。
『SAW』シリーズの脚本(1,2,3)や『インシディアス』シリーズ(1~4全作)の脚本(3は監督と兼任)を手掛けた人物というのはかなり期待しちゃいますよね。最近なんかは2018年の『アップデート』でも監督をしていましたし。

で、率直な感想としては、斬新さが面白い!という感じです。
正直、序盤はそこまで乗り切れていませんでした。
透明人間が存在するのか、主人公セシリアの頭がおかしいのかの駆け引きは王道的ながらも、よく見るような展開でしたからね。
とはいえ、作りは丁寧なだけに見ごたえは十分。
誰かがセシリアを見ているかのような意味深なカメラアングルが存在したり、逆にセシリアが何かの存在を感じ取っているようなカメラアングルが存在したりと、怖がるよりも「おお!すごい!」と感心してしまうような演出が光っていました。(たまに意味深なアングルを見せておいて何もないような見せ方をするのも、透明人間に翻弄されるセシリアの視点を感じさせていました)
また、透明人間と戦う上での王道的な展開(姿を晒すために粉物を撒いたり、床に足跡が付くようにしたり)も見せており、前半から出し惜しみなし。「おいおいこんだけ一気にネタ使って後半大丈夫か?」と、心配になってしまうくらいの大盤振る舞いでした。

しかし、そんな心配は杞憂に終わります。むしろ後半からが本番で、面白さも倍増していきます。
その導入では、透明人間が光学迷彩スーツによって実現していることが明かされるんですね。
これまでの透明人間像を破壊するかのようなハイテクな表現は、ある意味斬新でした。
セシリアが病院で包帯にまかれた男が運ばれていく意味深なシーンがありましたが、あれは従来の透明人間像との決別を意味していたのかもしれませんね。(1933年の元祖『透明人間』では、包帯をまくことで体の輪郭を縁取る表現がされていました)

そうして始まる後半戦は、前半での単独攻撃から打って変わってかなり大規模に。
さらに、セシリアの精神をすり減らすような嫌がらせのような攻撃から、直接的な暴力に変わるのも印象的でした。
どちらも昔から透明人間ネタとしては使われてきましたが、本作の暴力的な表現はかなり過激。
中でも、精神病院で銃を持った警備員たちをなぎ倒していくシーンは、その異常性を明らかにしていました。
戦意喪失した警備員に発砲をしたり、恐怖し怯える姿を楽しんでいたりしていましたからね。
また、このシーンはワンショット(風?)で撮影がされていたのも衝撃的でした。
やっていることは昔の透明人間のネタと変わりないのですが、見せ方ひとつで斬新に感じさせるのは、さすがリー・ワネル監督といった所です。

そんな監督の手腕に応えるかのように、良い演技を見せていたのが主演のエリザベス・モスでした。
彼女のキャリアを見ると、サスペンスからスリラー辺りのジャンルに出演する機会が多いようで、本作の演技でもその持ち味を発揮していました。
序盤では、エイドリアンが迫ってくる見えない恐怖に怯え、パニックになる姿を見せています。一方、後半からは彼に対抗するかのような鬼気迫る姿を見せており、その変貌にはセシリアの生き残ろうとする意志の強さと若干の狂気が感じられました。
ラストシーンでは、どの人物をも手玉に取った余裕すら見せており、素直にカッコイイと思えるキャラクター像を作り上げていたと思います。
ホラー映画であるにも関わらず、ただ怯えるだけでなかったのが良かったですね。

SF要素あり、逆転ありと、従来のホラー映画とは異なる模様を見せていた本作。
原作でもある1933年の『透明人間』へのリスペクトを入れつつ、光学迷彩や女性が戦う物語に仕上げていたのは現代味があります。
ホラーの体系も時代と共に変わっていき、それは見せ方次第では決して悪い事ではないことを考えさせる作品でした。

【レビュー】透明人間(1933)(ネタバレあり)

人間の恐怖という感情は、理解しがたいものを前にした時に感じるものらしいです。

そうして考えると、透明人間とはその恐怖に値する存在だと言えるでしょう。

もし目の前に突然なにかが存在していると分かればそれは理解しがたいことですからね。

そんな人間の根本的な恐怖を刺激するのが今回レビューする『透明人間(1933)』です。


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ストーリー

田舎村アイピングに、顔に包帯を巻きサングラスをつけ、帽子を被った男が訪れる。

彼はとあるバーで長期宿泊することだけを告げて閉じ籠ってしまった。

 

数週間後、家賃を滞納しているばかりか態度も悪い男に激怒した家主たちは彼に出ていくように要求する。

しかし、男は激昂し身に付けていた包帯を取り始めた。

透明人間であった彼は、その能力を使い家主たちに怒りをぶつけ始める。

 

感想

新作『透明人間』(2020年版)を見に行こうと思い、それならばと予習のために見た本作。

70分という現代では考えられない尺の作品ではありましたが、よくまとまっていました。

 

透明人間であることの悲劇、少しずつその力に飲まれていく絶望、その力に翻弄される人々の恐怖といった「透明人間映画といえば!」な展開がほどよく詰まっていて退屈しませんでした。

 

本作の中で目を引くのが、透明人間であるジャック・グリフィンです。

彼は初登場時から既に透明人間でした。

そこから宿を借りたかと思えば突然暴れだしたり、なにかとつかみ所のない行動を取るのは不気味でしたね。

あげくに「恐怖政治で人間をひれ伏せさせてやる!」なんて言い出すのですから危ないやつだという認識しかありませんでした。

しかし、ラストシーンでその姿が露になると、彼もまた普通の人間であったことを感じさせます。

途中に、薬の副作用で精神がおかしくなっているという話になんだか納得がいきました。特に改心した描写があるわけでもなかったですけど……

それだけ「姿が見えない」というのは、彼に対する印象を変えてしまっていたのでしょう。声だけ聞くとドスが効いてて悪そうでしたし。

 

そんなジャックが飲んだ薬ですが、一応作中でどんなものか触れられていました。

なんでもインドの草からとれた成分を漂白剤にし、それを薬にして飲んだのだとか。

理屈はよく分かりませんが、古今東西「インド=不思議なスポットがある」という認識は変わらないようですね。

 

そんな透明人間ジャックvs警察官たちの攻防が本作最大の見どころ。

透明なのをいいことに、傷害はおろか殺人まで犯すジャック。

それに対して警察が取ったのは、住民に情報を募り、警察官を総動員する作戦でした。

賞金が出るためか情報が集まること集まること。

「インクをぶっかければいい」とか「床にタールを撒いたらいい」とか、無敵を謳うジャックとは裏腹に、割と攻略法が出ているのは可笑しかったです。

で、実際に警察が取った方法は、目撃情報があった場所に円陣を組んでその円をだんだん縮めるという手段でした。

当然、隙間から抜け出されてしまう予想通りな結果には笑いましたね。

結局、突破口となったのは積もった雪についた足跡でした。

こういう所も昔から確立されているんだなぁと改めて感心しました。

 

そして感心したといえば、透明の表現でした。

当然ながらCGのない時代なのですが、全く違和感なく透明人間の表現をしていたんですね。

物が空中に浮いたり、イスが僅かに沈んだりと、製作陣のこだわりが見えるシーンの数々には感動しました。

いったいどうやっているのかは不明ですが、(人がいるシーンといないシーンを2回取ってつなげてる?)透明人間に対する愛が伝わってくる演出があらゆるところで見られるのは素晴らしかったです。

 

(有名どころとしては)最古の透明人間映画である本作。

いかに本作のネタが後世の作品に影響を与えているのかが読み取れました。

人間は消えても作品の良さは永遠に残って行くのでしょう。

 

【レビュー】ライブリポート(ネタバレあり)

SNSが流行している近年。 映画業界でもそれらを取り入れた作品が見られるようになってきています。 そんな時代を踏襲し生まれたのが今回レビューする『ライブリポート』です。 誘拐事件を生配信で追うという、現代らしいスタイルの作品となっています。

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ストーリー

警察官のペニーは逃走犯を追跡中、犯人を射殺してしまう。 その逃走犯は現在進行形で巻き起こっている、少女誘拐事件の身代金を取りに来た唯一の手掛かりとなり得る人物であった。 やがてもう一人の誘拐犯から少女の命のタイムリミットが64分であることが告げられた。 ペニーは配信サイトのリポーターをしているエイヴァから協力を得る代わりに事件を生配信することを許可する。

感想

大物俳優を起用し、イマイチな作品を生み出す名手スティーブン・C・ミラー監督。(例:ブルース・ウィリスニコラス・ケイジ、シルヴェスタ・スタローン) そんな勝手なイメージを持っている私ですが、彼の映画を劇場で見るのは初めてでした。 うん、こういうのが見たかった! これまで大物俳優を起用しては、なんとも味気ない使い方をしてきたミラー監督でしたが、本作に限ってはアーロン・エッカートをいい感じに使っていたと思います。 というのも、エッカートが演じたペニーは、かなりガサツで口の悪い警察官です。 そのチョイ悪な感じがエッカートのイメージとピッタリ。それだけでもなかなか好印象でした。 で、アクションシーンもバンバンやります。銃撃戦や格闘、全力ダッシュなど、ありとあらゆるアクションに泥臭くも挑む姿はこれまた彼のイメージにピッタリ。ここぞという場面で頼れる男らしさを見せるのがまたいい味をだしていました。

そんなペニーが誘拐犯を追って町を走り回るのが本作のストーリーのほとんど。 手掛かりが都合よく次々とつながっていく流れはある意味爽快。特に何も考えず見ていても内容を追えるのは良いのか悪いのか…… シリアスな話なのに見ごたえはないというのはなんとも切ない思いでした。

そして肝心のライブ要素。 これは可もなく不可もなく。 ティック・トックみたいな画面が合間合間に挟まれるのはたしかに新鮮なのですが「だからどうした」という感じなんですね。 コメントは見えないし(そもそも英語だからほとんど読めませんが……)、ハート機能も別に意味はなしていません。 臨場感という意味では効果アリなのですが、通常の撮影でもハンディカメラを使用しているのか、アクションシーンでは揺れがあって臨場感は演出されていました。 最後に生配信を見ていた視聴者が集まるという点だけは面白かったのですが、それ以外はあまり設定が生きてこなかったのは残念でした。

とはいえ、臨場感はあるため、アクション多めなのも含めて映画館で見るにはもってこいの作品でした。 誘拐犯がなぜか自ら銃をぶっぱなしながらペニーらを追ってくるというツッコミどころ満載の展開もアクションを重視すれば楽しめましたからね。 テレビだと確実に悪い点の方が目についてしまいそうです。

ティーブン・C・ミラー=俳優の持ち味を引き出せないという勝手な偏見を持っていました。 しかし、本作のアーロン・エッカートとのタッグを見ると、その考えを改めさせられました。 こうした見せ方ができるのなら、次回作での大物俳優とのタッグも楽しみになりますね。

【レビュー】ジョン・F・ドノヴァンの死と生(ネタバレあり)

芸能人と一般人の関係は片思いに似ています。 一般人がどれだけ親近感や愛着を感じようとも、芸能人からすればただのファンの内の一人でしかありませんからね。 では、もし芸能人から一般人に対するアプローチがあったなら……? そんな夢みたいな物語を、同じ境遇に立つ一人の俳優と一人の少年の視点から描いたのが、今回レビューする『ジョン・F・ドノヴァンの死と生』です。

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ストーリー

11歳の少年ルパート・タナーは、母サムと共にアメリカからイギリスへと引っ越してきたばかり。 母親とはぎくしゃくし、学校ではイジメに合う日々の中で、彼の心の支えは俳優ジョン・F・ドノヴァンとの秘密の文通であった。 そんなルパートの夢は、俳優となりジョンと共演をすること。 しかし、彼の人生には向き合わなくてはならない障害が幾つもあった。 それと同じころ、ジョンにもまた向き合わなくてはならない障害が訪れていた。

感想

『マイ・マザー』(2009)や『Mommy/マミー』(2014)などのグザヴィエ・ドラン監督最新作ということもあってかなり期待が高かった本作。 その期待に応える素晴らしい作品でした。

なにより驚かされたのが、演出の素晴らしさ。 許容できるギリギリなくらいまで俳優に近づけたカメラアングルは、それだけで彼らの世間に対する息苦しさをそのまま体感させるかのようでした。 さらに光の使い方が独特で、温かみがありながらもセンチメンタルな切ない気持ちにさせ、作品に引き込んできました。 そこにドラン監督の十八番ともいえる母子関係を描いたドラマを入れてくるのですから、これで感情を動かされないわけがありません。 ルパートとサム、ジョンとグレース、年代が違えどその愛が不変であることを感じさせる母子関係は、これまで幾度となくその関係を描いてきたドラン監督だからこそできるアプローチであったと思います。 ルパートとサムが再会し抱擁するシーンでは「Stand By Me」が、グレースがジョン(と兄ジェームズ)を見守るシーンでは「Hanging By A Moment」が音楽として使用されており、リンクした印象的なシーンとなっていました。

このように音楽によるアプローチも割と秀逸。 アデルの曲「Rolling In The Deep」とマッチさせたオープニング&タイトルロゴ表示は、それだけでもセンスを感じます。 エンドロールも本作のジョンの気持ちを歌ったような歌詞になっており、シーンごとのマッチングが素晴らしい選曲がされていた印象が強かったですね。

そんなドラン監督による母子関係を描いた作品ですが、いつもと違ったのがメインテーマはルパートとジョンの手紙のやり取りであることです。 ただ、面白いのは二人は本編開始時に既に手紙のやり取りを5年近く続けており、本作で描かれているのはその終盤だけである事でしょう。 また、肝心な手紙の内容はほとんどが明かされておらず、あくまで二人が手紙によってつながっているという事実だけが重要視されていました。 憶測ではありますが、これはわざと伏せていたのではないかと思います。 本作はそもそも、大人となったルパートの回想という体で物語が展開していました。 そのため、内容は明かすも明かさないも彼の裁量次第であったわけです。 つまり、ルパートはジョンとの手紙の内容を明かす気がなく、二人の秘密として留めておこうとしたのではないでしょうか。 なんにしても、似た境遇に置かれていたルパートとジョンに絆が生まれたこと、手紙によって互いの人生を大きく変えたこと、ルパートの将来がよいものとなったことは作中の表現を見ていても分かります。 ジョンとルパートの面識がないにも関わらず、非常に近しい関係のように思えたのは不思議な感覚でした。

こうした世界観に説得力を与えていたのが俳優陣です。 様々な問題を抱え、人気者でありながらも常に苦悩を抱えているジョン・F・ドノヴァンを演じたキット・ハリントンの情緒豊かな演技。 息子との関係が上手くいかず、時には感情を爆発させてしまうルパートの母サムを演じたナタリー・ポートマンの愛と苦悩に翻弄される演技。 なにより凄いのがルパートを演じたジェイコブ・トレンブレイです。 『ルーム』(2015)や『ワンダー 君は太陽』(2017)、『ザ・プレデター』(2018)、『グッド・ボーイズ』(2019)など、弱冠13歳にして数多くの作品で重要な演技を見せているジェイコブ。 その演技力の高さは、おそらく本作を見た人ならだれもが感じたことでしょう。 セリフの抑圧から、体を使っての感情表現、涙の流し方の自然さなど、大人顔負けの演技には作中何度も驚かされました。 このままいけば間違いなく大物俳優になれることが予想できる期待の子役です。

グザヴィエ・ドラン監督が初めてハリウッドに進出して作られた本作。 その評価はあまり著しくなく「ドラン監督のキャリアワースト作品」なんて言われたりもしたそうです。 とはいえ、母子関係の描き方や演出はいかにもドラン監督らしさが出ており、別に腕が落ちた印象はありませんでした。 本作を経て、よりよい新たな作品が作られるのを期待しましょう。

【レビュー】チリ33人 希望の軌跡(ネタバレあり)

実話を映画化というのは映画業界では珍しくない風潮ですよね。 普通の暮らしをしていても、何かしら劇的な事件に巻き込まれれば、私のような一般人でも映画の主人公になるかと思うとロマンがあります。 今回レビューする『チリ33人 希望の軌跡』では、2010年に発生した「コピアポ鉱山落盤事故」を題材にした作品です。

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ストーリー

2010年8月5日。 チリのサンホセ鉱山に派遣された33人の炭鉱作業員たちはその日も作業に取り組んでいた。 安全管理担当のルチョは、山が脆くなっていることから危険を会社に訴えかけるも、それは封殺されてしまう。 やがて、鉱山は崩落を始め33人は避難所に取り残されてしまった。 地下700m、食料は僅かな中、33人は互いに協力し、救助を待つ。

感想

アマゾンプライムにおすすめされて興味を持った作品。 けれど、残酷かなあらすじに「33人の男たちが、69日後に奇跡的に生還した~」と書いてあるではありませんか! 「やってくれたなアマゾンプライム!」と思いつつ、見るのを止めようかとも考えましたが、主演にアントニオ・バンデラスジェームズ・ホーナーの準遺作ということを知り、やっぱり見ることに。(ジェームズ・ホーナーの遺作は『マグニフィセント・セブン』。けれど本作にも追悼文がエンドロールにありました)

で、感想。やはり見て良かった! たしかにあらすじで全員助かることが分かっていましたが、それでもハラハラドキドキできたのですからすごいです。 崩落事故の緊迫感、食料がなくなっていく焦燥感、助けが来る気配のない絶望感…… 33人を演じた俳優たちの生々しい演技と息苦しさが伝わってくるかのような環境によってそれらを感じとることができたんですね。

そんな俳優陣の中でもひときわ輝いていたのが、リーダーシップのあるマリオを演じたアントニオ・バンデラスでした。 みんなからの信頼が厚いがゆえに食料番を任され、自ずとまとめ役までするようになり、精神的に疲弊したメンバーのサポートまでするというなんとも忙しい人物です。 時には地上で勝手に「スーパーマリオ」なんて呼ばれて、それがきっかけで仲間と揉めるなんてシーンもありました。 そんな感情豊かな鉱夫の役は、ザ・渋い男であり、かつ多くの作品に出演してきたバンデラスだからこそできた役柄だと思います。

本作、面白いのが地下の33人の動向だけでなく、救助を目論む地上の人々のごたごたも描いていることです。 キーパーソンとなるのが、鉱山大臣であるロレンス。 彼はチリの首相から「チリ全土が注目してるんだから絶対成功させろ」と言われたり、鉱夫の救助を待つ家族たちから「早く助けろ!」と言われたりと、なかなかの苦労人。 それでも名誉とか関係なく、ただ助けたいという意思のもと行動する彼の姿には好感が持てました。 彼含め、現場にいる人々が、打算的な考えなく動いていたのが純粋に応援したくなる展開につながっていたと思います。

地上の視点でもう一つ見どころであったのが、市民たちの動向でした。 被害者家族たちは常に神妙な面持ちで救助作業を見守っているのですが、周りの人たちからすれば日常に舞い込んできた一種のイベントのようになっているんですね。 屋台を出したり、グッズを売ったり……33人の生存が分かっているとはいえ、なかなか考えさせられる光景でした。 しかし、こうしたシーンはあくまで「チリ国民の多くが注目していた」という事実を伝えるためであり、別に悪い意味で描かれているわけではありません。 むしろ、イベントとして楽しめていたのは彼らが助かるという希望が持てていたからこそ。 それが分かる歓喜に沸くシーンは、見ている方まで嬉しくなってしまう力強さがありました。国民が一体となれるって素晴らしいことです。

地下と地上の両面から「コピアポ鉱山落盤事故」を描いていた本作。 最後には本人たちも出演させており、彼らに対するリスペクトも感じられました。 起きたこと事態は悲劇でしたが、それが希望の物語となったのですから素敵な話ですね。