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【ネタバレあり・レビュー】エンドレス・エクソシズム | 死体安置所でうごめく悪魔がじんわり怖いホラー!

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遺体安置所と聞けばそのフレーズだけでもなんだか不気味な印象を受けます。
死んだ人を扱う部屋なので、それが本能的に恐ろしさを感じさせるのかもしれません。
そんな遺体安置所ではありますが、意外とホラー映画の舞台には選ばれていないように思えます。
その遺体安置所を舞台に、悪魔の取り付いた死体が大暴れする作品が、今回レビューする『エンドレス・エクソシズム』です。

作品概要


原題:The Possession of Hannah Grace
製作年:2018年(日本未公開)

監督:ディーデリク・ヴァン・ローイェン
脚本:ライアン・シーヴ
主演:シェイ・ミッチェル、カービィ・ジョンソン

ストーリー

警察時代のある出来事がきっかけで、精神的に衰弱していたメーガンは社会復帰のため、友人の紹介で遺体安置所での夜勤を始める。
ある夜、彼女は一人の少女ハンナ・グレースの死体を引き取る。
その遺体を引き取った直後から、メーガンの周りで奇妙なことが起こり始めた。

設定は斬新、内容は手堅いホラー!

怖さはあまりないエクソシストホラー

エクソシストを題材にしたホラーといえば、ウィリアム・フリードキン監督の『エクソシスト』を連想します。
そのため、エクソシストを題材にしたホラーに対するハードルは個人的には高くなりがちです。
で、本作なわけですが、思ったよりも怖くはない……というか、エクソシスト感がありませんでした。

たしかに死体少女ハンナに悪魔は乗り移ってはいます。
恐ろしい形相はするし、獣のような叫び声は出すし、念力的なもので人を殺すし、やることは悪魔らしいです。
けれど、それを見せるのは終盤になってから。
それまで彼女は体の傷を癒すため、登場人物を一人一人殺していくこてこてなホラーを展開していました。
「あ、この人死ぬな」と思った人がグロさも異色さもなく、念力のような力であっさりと殺されていくのはなんだか物足りなさを覚えます。

むしろ、面白かったのは序盤から中盤に掛けてのメーガンの精神を不安定にさせる行為の数々。
閉めたハズのドアを開けたり、転がったボールを拾ったり、廊下を走ってみたりと、やっていることは子供のイタズラレベルなのですが、シンと静まり返ったメーガン一人の死体安置所だといい感じにホラーと化します。
この環境を使ったホラーが個人的に、この作品の魅力であったと思います。
それについては、次の項目に書いていこうと思います。

誰もが辞めたくなる職場環境

作中、メーガンが死体安置所の職に就く際に、雇い主は「あり得ないものを見聞きして辞める人間は多い」というような事を言っていました。
その時は「そりゃ死体を扱う仕事なら精神的に不安定にもなるわな」くらいに思っていましたが、話が進むにつれてその原因が職場環境の悪さにあるように思えてきました。
廊下は奥行きが長く、電気が消えるとすごく不気味。その電気は人感センサーで勝手に点いたり消えたりしますし(消え具合によって十字架の形をしているのが意味深でオシャレ)、遺体が運ばれてきた時のブザー音はやたら大きく耳障りというなんとも心臓に悪い環境です。
オマケにワンマンでの作業。そりゃあ精神的におかしくなる人も出るというものです。
一番問題なのはそうした課題があるのに特に雇用形態やら職場環境に手を加えない雇用主。まあ、ここは映画なのでそこまで深く考えない方がいいのかもしれませんね。
なんにしても、死を扱う現場なのに人を怖がらせるために特化しているかのような職場は映画的には美味しかったです。

ある意味意外なラストシーン

一番最初の項目にて「こてこてなホラーを展開していた」と書きましたが、意外性……とうよりかは予想と反していたのがラストシーンでした。
たいてい、B級ホラー作品だとラストシーンはインパクトを残すためかバッドエンドが多いです。
本作でもそうした下地を作っており、悪魔は精神的に弱った人間を狙う→精神を病んでいたメーガンは狙われているといった描写もありました。

そしてラストシーン。
ここでメーガンのモノローグが入るわけですが、それまでの前フリを見ているとまるで悪魔が次に乗り移ったかのように思えます。
けれどそう思わせておいて、悪魔の象徴ともいえるハエを叩き潰すという形で彼女が人間であることを証明していたんですね。
で、この「精神的に強くなった」という描写も作中ではちゃんと表現されています。
抗不安薬のことを元恋人に打ち明けたり、死体搬入の男に励まされたり、自身のトラウマを克服して悪魔を殺したりと、前フリは十分にできていました。
このどちらとも取れる前フリをしておいての悪魔に打ち勝った描写というのは個人的に上手いなと思いました。それだけでも見た価値があったと思えるくらいには。
基本的にホラーのラストシーンは後味が悪いか、手堅く印象に残らないオチだったりするため、本作の締めは割と好印象でした。

死体役ハンナ・グレ-スを演じたカービィ・ジョンソンとは?

この作品、主演のシェイ・ミッチェルの活躍は然ることながら、目を引いたのが死体ハンナ・グレースを演じたカービィ・ジョンソンの演技でした。
彼女はどういった俳優であるのか、それについて今回は調べてみました。

彼女は、1996年2月12日にフロリダ州のキーラーゴ島という場所で生まれました。
このキーラーゴという場所はダンス文化が有名らしく、彼女は11歳からダンサーとして活動を始め、成功を収めたようです。
本作のハンナ・グレースの動きもダンサーとしての経験が生きたことをインタビューで語っています。

映画界に進出したのは2016年。
『5150』というスリラー映画にメインキャストとして出演したことでデビューを果たしました。(残念ながら日本語で見ることは現在できそうにありません)
この作品で彼女はカミという精神病を患った女性を演じ、姉妹にブチ切れるという怪演を見せ、高く評価されることに。

そうした経験もあってか、2018年にこの作品のハンナ・グレース役として抜擢されました。
冒頭のエクソシズムシーンの狂ったように暴れる姿はもちろん、獣のようにメーガンに迫るシーンなど、鬼気迫る演技を見せていたと思います。
個人的に印象に残ったのは、メーガンがふと目を離した隙にハンナが彼女の方を向いていたシーン。メイクの力もありますが、あの目力は恐ろしさを声もなく表現していました。

カービィは2019年に『VHYes』というコメディ作品に端役ながらも出演。
現在は、YouTubeで恋人であるルーク・アイズナー(Netflixオリジナル映画『トールガール』に出演)と「Kirby & Luke Diaries」というチャンネルで活動をしていたり、インスタグラムで活動をしていたりするようです。

今後の活躍に期待が掛かる注目の若手俳優ですね。