【レビュー】THE PROMISE/君への誓い(ネタバレあり)
戦争とはいつの時代であっても凄惨な人種差別が行われています。
第二次世界大戦時にユダヤ人がそうであったように、第一次世界大戦時には、アルメニア人が被害者となっていました。
その事実は今もなお「アルメニア人虐殺」として語り継がれてきています。
そんな虐殺のリアルな様子をラブロマンスを交えつつ描くのが、今回レビューする『THE PROMISE/君への誓い』です。
ストーリー
オスマン帝国の小さな村で生まれ育ったアルメニア人の青年ミカエルは、婚約者の持参金を使い、帝国医学大に入学した。そこで同郷のアルメニア人アナと出会い彼は恋に落ちる。
しかし彼女には既にアメリカ人ジャーナリストのクリスという恋人がいた。
やがて第一次世界大戦が勃発すると、アルメニア人に対する弾圧が始まるのであった。
感想
公開当時、映画館で見ようと思っていたのですが、時間もろもろ合わずに見送ってしまった作品です。結構、当時の世界観(1914年頃)を表現するシーンが多かったため、スクリーンで見るとだいぶ楽しみ方が変わったのかなと思うと今更ながらに残念に思えます。
とはいえ、それを抜きにしてもいい映画でした。
当時のアルメニア人の様子は、世界史なんかでもあまり触れられておらず、知ろうと思わなくては知れない事実です。
それを目や耳を通して、人間ひとりひとりの感情にフォーカスしつつ見ることができるというのは、歴史映画のいい所をしっかりと抑えていたと思います。
例えば、医学生であるミカエルが迫害を受け続けてきたトルコ軍の人間を銃で撃てないような、そんな人間味を描いているのは心に訴えかけるものがありましたね。
また、様々な視点からアルメニア人虐殺の行方を描いていたのも秀逸でした。
迫害を受けるアルメニア人ミカエル、傍観することもできるけれどそれをよしとせず巻き込まれていくアルメニア人アナ、アメリカ人として安全な立場にありながらも真実のため奔走するクリス、友人たちのために自らを犠牲にするエメレ。
それぞれが自らの大切なものを守るために行動する姿はとても見ごたえがありました。
基本的に主要人物は皆、仲間思いのいい人間ばかりで自然と好感がもてるようになっていたのは、視点が変わりがちであってもキャラが追いやすくて良かったです。
「戦争での虐殺」という凄惨で思わず引いてしまいそうな題材でしたが、メインとして描いていたのが男女の愛の物語というのが非常にキャッチーでした。
田舎の村で打算的な婚約をしたミカエルが、都会の街コンスタンティノープルで出会った同郷の女性アナに惹かれていく様子は、少し不義理を感じさせますが、その運命的な関係に美しさを感じたりもしました。
アナに恋人クリスがいたり、結ばれたと思ったら戦争(虐殺)によって離ればなれにさせられたりと、障害が多いのも結ばれた時の盛り上がりにそのままつながっていたように思えます。
そんなアナの最期が本作ではなかなかに衝撃的でした。
ミカエルの親戚を救出するために、落下した船から戻れずそのまま海に沈んでいく最期を迎えるんですね。
逆に、彼女を取り合っていたミカエルとクリスは生き残り、お互いだけが彼女の死の痛みを唯一分かるというのは皮肉な話でした。
とはいえ、先述した通りクリスも恋敵というだけで悪いヤツではありません。
演じるのがクリスチャン・ベールということもあって、ミカエルと共に応援したくなるキャラだったので、アナを失うことで彼らの仲が深まったのは少し嬉しくもありました。
で、疑問に残るのがなぜ彼女を殺したのかです。(作品として)
いくら男二人の間で揺れる恋心があるからと言って殺すのはなんの解決にもなりません。そうなると他の意味があると考えて良いでしょう。
そこで生きてくるのがアナが言った「生きる残ることが復讐よ」というセリフです。
これは、ミカエルが自身の中に湧き上がる復讐心に戸惑うことに対するセリフでした。
要は、復讐心を人を殺すためでなく、生き残るために使えという事ですね。
そんな彼女が命を落としたことによって、ミカエルの中でその言葉の意味はより強大なものになります。
愛する人を失った復讐心を燃やして生きる。
たしかにそれは悲劇的ではありますが、ラストシーンでのアルメニア人が不滅であることを表現したシーンを見ればそれが真の勝利であったことは明確です。
そんな不屈の精神が今なおアルメリア人を生かしていることを感じさせるのは感動的でした。
アルメニア人虐殺の真実を痛烈に描き出していた本作。
悲惨でありながらも人との絆は美しく、今の時代につながる感動的な物語であったと言えます。
再現度、メッセージ性、リスペクト、全てが上手くまとまっていた評価すべき作品でした。