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【レビュー】ナイチンゲール(ネタバレあり)

ナイチンゲールと聞くと、かの有名なフローレンス・ナイチンゲールが思い浮かびます。

人生を看護師として捧げたその高い志は今なお語り継がれています。

そんな彼女の名前をタイトルにつけた作品が今回レビューする『ナイチンゲール』です。


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ストーリー

ブラック・ウォー(1828-1832)の最中、オーストラリア、タスマニア島

囚人として流刑されてきたアイルランド人クレア・キャロルは、イギリス軍部隊に日々奉仕をしていた。

イギリス軍中尉ホーキンスは、奉仕の暁に仮釈放の推薦状を出す約束をしていたが、いっで経ってもその約束を守ろうとする意志が見られなかった。

クレアの夫エイダンが直談判を行うが、ホーキンスは取り合わず彼を射殺してしまう。

さらにホーキンスの部下たち二人も加わり、クレアをレイプし、彼女の赤ん坊も殺してしまう。

翌朝、姿を消したホーキンスたちに彼女は復讐を誓うのであった。

 

感想

殺された夫と娘の復讐を銃一丁で果たそうとする、時代が時代なら西部劇のような内容です。

ただ、舞台が1820年代後半のタスマニア島なだけに、ジャングル地帯で、銃の扱いすら知らない女性クレアが復讐を目論むという、なんとも手探りな作品になっていました。

銃を撃とうとすれば故障しているし、撃てたら撃てたで狙いとはまったく異なる方向にぶっぱなしたりと、かなりヒヤヒヤもの。

足に負傷を負っている相手を殺すことすらままならない状態でした。

 

それでも、復讐を成し遂げるために彼女を突き動かすのは復讐心です。

冒頭で弱々しくホーキンスに従うしかなかったクレアが、無関係の人まで殺さんとする狂暴な性格に豹変する導入には一気に引き込まれました。

大尉相手に「くたばれ!」とか言う人間を初めて見ましたよ。

 

とはいえ、冒頭にも書いたようにクレアは銃の扱いすらままならない女性です。

それを支えていたのが黒人のビリーとなります。

まず驚きであったのが黒人の扱い。

奴隷とまではいかないものの、イギリス人が見つけたら即射殺しようとするぐらいにはヤバい状況でした。

おまけに「黒人は人を食うぞ」と訳のわからない伝承までされており、いかに彼らが生きにくい世界だったのかが伝わってきました。

そんな世界で生きるビリーですが、作中では一番まともな人間であり、好感の持てる人物でした。

ホーキンスたちの追跡から銃の点検、動物の狩り(食料調達)、薬の生成など、多才な能力を持っている頼れる存在として活躍していましたね。

 

そんなビリーとクレアの関係が本作のキモであったように思います。

この二人、人種や国はまったく異なるのですが、境遇はかなり似通っていました。

クレアはアイルランドの故郷から終われタスマニア島へ。そこでホーキンスらイギリス軍に利用され家族を奪われています。

一方、先住民アボリジニであるビリーもイギリス人たちによって母親と離ればなれに、父親も殺されるという、土地も家族も奪われた状況でした。

つまり、二人は故郷も大切な人も奪われ生きる場所もない境遇に置かれていたのです。

そんな二人が、自身に残されているのお互いしかいないということに気づき、愛をも超越した信頼関係を築いていく様子は考えさせられる内容でした。

 

そんな二人の関係がもたらす結末がまた意外でした。

初めに復讐を持ちかけていたクレアは、ホーキンスらに対して言葉で正論を説くことで全てを終えてしまうんですね。

対してビリーはホーキンスらを殺すことで復讐に決着をつけてしまいます。

ここから見えてくるのは、お互いのことを思った行動を取っていることでしょう。

クレアはたとえ復讐が果たせずともビリーと生きていくことを考え、ビリーはクレアに自由を与えるためホーキンスらへ復讐を果たしたと考えられます。

その結末は、ラストシーンで陽が昇っていたことからも分かるように、希望に満ちた未来なのでしょう。

ビリーの話していた「説得しても聞き入れないやつは殺すしかない」というアボリジニの考え方は正しかったということが分かります。

作中の描写からも見てとれましたが、基本的に先住民アボリジニたちに対するリスペクトが半端ない作品でしたね。

さすがはオーストラリア産作品です。

 

本作は上映時間が136分と長く、復讐相手は3人というむしろドラマに比重が置かれている作品でしたが、その見ごたえは十分で136分しっかりと引き込まれました。