【レビュー】奴らを高く吊るせ!(ネタバレあり)
西部劇にはロマンがあります。
広がる荒野、木組みの町、暴れる無法者たち、孤高のガンマン……
唯一無二の世界観で戦う男たちの生き様は、色あせない魅力があると思います。
そんな西部劇のある男の死に様から始まるのが今回レビューする『奴らを高く吊るせ!』です。
冒頭からいきなりクリント・イーストウッド演じるジェドがリンチされ、木に吊るされるという衝撃的な始まりを迎えていました。
もちろん、そこで死んでしまうなんてことはなく、ギリギリの所で生還。
罪人として再び縛り首になりそうな危機をオクラホマ準州に属するフォート・グラントの判事フェントンに助けてもらっていました。
数々の西部劇で幾多のピンチに見舞われてきたイーストウッドですが、本作ほど酷いスタートを切るのは類を見ませんでしたね。そういう意味では掴みは万全だったかと思います。
で、当然ジェドは復讐を決意。けれどフェントン判事としてはそんな無法者のような復讐を許すわけにもいかず、フォート・グラントの保安官として縛り首にしてはと持ち掛けられるんですね。
タイトルの『奴らを高く吊るせ!』(原題:Hang 'Em High)はここから由来しています。
ただ複雑なのは、リンチをした集団はあくまで自警団的な奴らで、殺された牧場主の敵討ちをするためだったんですね。要は私刑が冤罪だったわけです。
肝心の牧場主を殺した犯人は、既に捕まっており縛り首に。根っからの悪党は既にいないのです。
けれど、ジェドとしては勝手に犯人にされて縛り首なんて酷い屈辱ですから、復讐するのも致し方ないのでしょう。
こうした、微妙な立ち位置が作品の本質に繋がっているから、本作はなかなか秀作だと思います。
初めこそ、ノリノリで復讐をしていたジェドですが、フェントン判事が「悪党は死刑!」という人情もない判決を下すのを見ている内に、反面教師的に自らの行いを振り返るように。最終的には「リンチ犯を連れてこい!」というフェントン判事に対して「もう許していいだろう」というスタンスを取っていました。
こうして文字だけ見るとフェントン判事は悪党に見えるかもしれませんが、私としては彼もまた良い人間だと感じました。
なぜなら、フェントン判事もフォート・グラントの治安を維持し、準州であるオクラホマを正式な州とするという信念を持って仕事に挑んでいたからです。
むしろ、まだ法の確立がされていない時代に、自身の判断が正しいのかも分からぬまま、それでも信念を貫ことうとする可哀想な人のようにすら思えました。
絞首刑を見守る目は悲しげだった(ように個人的には見えました)のもそうした気の迷いが理由だったのではないのでしょうか。
それだけに、最後にジェドが保安官として戻ったのはフォート・グラントのより良い未来を予想させました。
派手な銃撃戦とかはなく、ガンアクションだけだと少し物足りない風味であった本作。
けれど、ジェドが復讐に対して考え方を改めていくのを時代の変革になぞらえて描いた内容は秀逸であったと言えるでしょう。