【レビュー】人生の特等席(ネタバレあり)
野球選手がプロになるために必要な人、それはスカウトマンです。
高卒、大卒、社会人関係なく、彼らの評価は気になるでしょう。
そんな野球には欠かせないスカウトマンですが、映画でその役職を題材にした映画というのは今まで目にすることはありませんでした。
そんなスカウトマンを題材にした貴重な作品が今回レビューする『人生の特等席』です。
本作の主人公は、クリント・イーストウッド演じるガス。
一人孤独に暮らすいわゆる頑固爺で、邪魔な机を破壊したり、「チャンピオンの朝食だ」と言ってスパムを食べたりと、ワイルド全開。
けれど、視力を失いかけていたり、娘との確執に心労を募らせていたりと、寄る年波には抗えない哀愁も漂わせており、イーストウッドがはまり役でした。
そんなガスは、プロ野球チームのアトランタ・ブレーブスでスカウトマンをしています。
彼は、長年の経験で多くの選手を獲得してきました。しかし、業界では近年データで選手を見るように。
クビすらも危うい落ち目のスカウトマンになり果てていました。
ここら辺は『マネー・ボール』を見ていたら、データ野球が真逆の立ち位置になっていて面白いです。
ガスにとっては再起が掛かっているスカウト視察、狙うはドラフトの目玉のボー。
メインストーリーとなるのは、そのボーと絆を深めること……ではなく、スカウト視察の旅へ同行したガスの娘ミッキーと向き合うことでした。
私は初めの内、若干距離はありながらも、父娘の仲はそこそこなのだと思っていました。(心配して様子を見に行ったりもしていましたし)
しかし、ガスには過去にミッキーを親戚に押し付けてスカウトの旅に行ってしまったという過去が。
そのせいで彼女は成人した現在でも、誰かから見捨てられることに恐怖を抱いているんですね。
その溝を埋めるかのように二人は、ボーがドラフト指名に値するかを調査したり、バーで飲んだり、野球をしたりと、一緒の時間を過ごします。
しかし、それだけでは確執が和らがないのがリアルでした。
ミッキーとしては数十年越しの確執ですし、当然と言えば当然でしょう。
予想外だったのはガスの抱える過去の重たさでした。
まさか殺人(?)がきっかけでミッキーを手放すことになっていたとは予想もしません。
しかも、罪を償っていないというダブルインパクト。
結局、被害者が生きていたのか、警察の怠慢なのか、特に明かされることもなく作品が終わってしまうのは、モヤモヤを残しましたね。
とはいえ、ガスはボーの弱点を見抜いてスカウトマンとしての意地を見せ、ミッキーはガスの過去を受け入れスカウトマンとして後を継ぐことを決心。
全てが丸く収まってめでたしめでたし……あれ?こんなあっさり解決してよかったんだっけ?
先ほども書いたように、ガスは罪を償っていません。
ガスが否定していたボーは1,2打席で弱点を晒し、作中で散々言っていた伸びしろについては加味されず欠陥品のレッテルを貼られます。
代わりにミッキーが偶然出会った無名のピーナッツ売りの少年が1,2打席投げただけでプロ入り。
いろいろと都合の良い展開が続くんですね。
トドメは、レッドソックスのスカウトマンジョニーの末路。
彼はガスとミッキーのアドバイスを受け入れたことで、スカウトマンをクビに。夢であった野球実況者としても絶望的な状況に置かれます。
当然、キレて親子の前から姿を消すのですが、なぜかラストシーンで急に帰ってきて全てを許していました。
これではただミッキーといい感じになりたいだけの色ボケです。
せめて何かしら納得する理由があれば良かったのですが、はたから見ると「0からで具体的な案はないけど頑張る」というようにしか見えませんでした。
このように、終盤まで丁寧に積み上げられてきた物語が、最後にご都合主義で一気に消化されてしまった印象が強かったです。
展開としてはそうでもしないとハッピーエンドにならないため仕方なかったのかも知れませんが、もう少し自然にいかなかったのかなと残念に思えました。
スカウトマンとしての苦労と父親としての苦労を同時に描くことでドラマを生み出していた本作。
そうした世知辛い現実に打ちのめされたイーストウッドが見せる哀愁は、あらゆるシーンでグッとさせられました。
自身の監督作では、なかなか綺麗なハッピーエンドを迎えられないイーストウッド。(個人的な印象かもしれません)
彼が幸せそうになっているのなら、ご都合主義な展開も悪くはなかったのかもと思えました。