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【ネタバレあり・レビュー】ソウル・ステーション/パンデミック

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ストーリー

ソウルの民宿で暮らしている家出少女ヘスンは、ヒモ男の恋人キウンに体を売ってお金を稼ぐように強要されそうになり、彼のもとから飛び出してしまう。
同じ頃、ソウルの駅で寝泊まりをしていたホームレスの一人が命を落とす。
しかし、その男は命を吹き返し、仲間を次々に襲い始める。
ソウル駅がパニックに陥る中、ヘスンは偶然そこに居合わせてしまう。

感想

新感染 ファイナル・エクスプレス』を見て、同じ監督ヨン・サンホが手掛けた前日譚があると知って今回鑑賞しました。
で、そこで知りましたがこの監督はもともとアニメーション映画などを主として活動していた人だったんですね。
それだけに、本作もクオリティの高いアニメーションを見せていました。
ゾンビの外見や動きなど、まるで実写のような不快感を煽るものとなっているんですね。血の描写もやたらリアルですし。
正直、見る前は「アニメーションでそこまでゾンビパニックの緊迫感を表現できるのか?」と思っていましたが、気づけばその息を呑むような展開に引き込まれていました。

アニメーション=コミカルな表現というイメージが個人的には強いのですが、本作の特徴として、最初から最後まで陰惨としているというのがありました。
その理由が、本作が韓国社会に対する風刺をこれでもかと盛り込んでいたからです。
本作、そもそもメインキャラクターが、ヒモ男に体を売るよう半ば強要されている家出少女でした。もう、これだけでもなかなかハードです。
さらに、その少女がパニック化で共に行動をするようになるのがホームレスコミュニティ。
このホームレスたちの描写もかなり色濃くされており、ホームレス内にも存在するカーストであったり、厄介者として社会の人々がぞんざいな扱いをしていることを見せていたりと、かなり社会問題にフォーカスしていました。
警察官ですら、暴動が起きたことをホームレスのせいにしていましたからね。常日頃からどんな扱いを受けているのかが見て取れるようでした。
その不条理さにホームレスのおじさんが思いの丈をぶちまけるシーンは、心に刺さるものがありました。(結局、聞き届けられない辺りがまた不条理です)

ラストシーンもかなり陰鬱としており、救いがありません。
まさか、少女を必死に探していた自称父親が風俗店の店長とは思いがけないどんでん返しでした。命がけで借金取り立てにくるとかどうかしてますよ。
で、結局キャラクター全滅でエンドという救いのなさ。唯一、スッキリしたとすれば『新感染』のパニックにどのようにしてつながったのかが理解できたことくらいでしょうか。
とはいえ、ウイルスの大元(今作で最初の感染者であるホームレスを噛んだ者)は不明なままで、あくまでソウルが大混乱になった理由しか分かりませんでした。(『新感染』で名前の挙がったバイオ会社とか関係してくるかと思っていたのですが)

社会問題へ対するメッセージ色が強い作品だけに、『新感染 ファイナル・エクスプレス』と比べると地味であったのは事実です。
基本的にゾンビとの戦いは最小限ですし、『新感染』のゾンビみたくアクロバティックな動きは見せませんし、その生態(視界を遮れば襲わなくなるといった特徴)についてもさほど触れられていません。
良くも悪くも普通のゾンビ映画であったという印象でした。(キャラクター全滅という意味では斬新なのかもしれませんが)
面白いというよりは「考えさせられる、タメになる」作品として見た方がいいのかもしれませんね。


新感染 ファイナル・エクスプレス』の前日譚であった本作。
エンタメ色を濃くしたあちらの作品では描くことのできなかった重い社会問題を描いており、そこにオリジナリティが生まれていたと思います。
新感染 ファイナル・エクスプレス』を補完する、万人受けはしないものの、しっかりとした作品でした。