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【ネタバレあり・レビュー】新感染 ファイナル・エクスプレス | 革新的な表現でゾンビ映画に新たな面白さを与えた怪作!

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ストーリー

ソウルでファンドマネージャーとして働くソングは妻と別居し、娘スアンと共に暮らしていた。
スアンは誕生日に、釜山にいる母親に会いたいと言い、ソングは渋々ながらもそれを了承した。
翌日、二人はソウル発釜山行きの新幹線に乗る。
しかし、その新幹線には怪我をし、体に異変を来たし始めている女性も乗り合わせていた。

感想

「ゾンビが走るのは御法度か」という論争が始まったのは、ザック・スナイダー監督作『ドーン・オブ・ザ・デッド』(2004)からでしょう。
ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968)で根付いた「ゾンビはゆっくりと歩きながら襲ってくるもの」という固定概念を壊す走るゾンビというスタイルは賛否両論でした。
その問題点となっているのがおそらく「ゾンビらしさがない」ということ。
全速力で走るゾンビなんてゾンビらしくないという見方をする人が多かったわけです。(そもそも腐った体でどうやって走るんだというツッコミもありますが)

さて、では本作はどうであったかという話になりますが、この「ゾンビらしさ」の演出が素晴らしかったと思います。
アルツハイマー患者の動きとボーンブレイクダンスなるものを混ぜ合わせたというゾンビへの変化は画期的。その異質さに感じる恐怖はまさに「ゾンビらしさ」そのものであったと思います。

さらに凄いのがダイナミックな動きの数々。
転ぼうが殴られようがお構いなしに特攻してくる姿は完全に常軌を逸したもので、そのスピード感にグイグイと引き込まれていきました。
そこへさらに生かされるのが新幹線内という舞台。
攻撃本能も感染能力も高いゾンビを前に狭い新幹線の中で逃げなくてはならないという絶望的な状況は、緊迫感がありました。
一方で、ドアを開ける知性すら持っていないゾンビに対してあれこれと対応策を取り入れていたのも良かったです。
新幹線という舞台設定を100%生かすことで、王道ゾンビパニックをより面白く、感情移入できるものへと変えていたのだと思います。


そんなゾンビ映画として革新的な面白さを見せていた本作ですが、もう一つ素晴らしかったのが人間ドラマでした。
それまでの人生で人を見捨てることをしてきた主人公がパニックを前に成長を見せる姿は素直に応援したくなります。
失われかけていた親子の絆を取り戻したり、思わぬ友情が芽生えたりといった感動的なシーンがあるのも良かったです。
一方で、ゾンビを前におよそ人情に欠けた行為に走りだす人々を怪物のように描くようなシーンもあり、パニックに陥った人間をよりリアルに描写していたと思います。

ただ、こうしたシーンはハッキリ言って現存しているゾンビ映画で散々表現されてきたありきたりなものです。
ではなぜ心に刺さったかというと、キャラクターの分かりやすさがあったからだと思います。
自分が助かるためなら他人を蹴落とす人間であったものの、人情に触れて改心したソグ。
ド直球な性格で一切迷うことのない生き様を見せるサンファ。
最初から最後まで自分が生き残ることしか考えないヨンソク。
こうしたキャラクターは非常に分かりやすく、作品の早い段階からその本質を掴むことができます。
そうなると、応援したり、ムカついたりと感情移入がしやすくなるんですね。
そこへゾンビパニックという吊り橋効果が加われば、シンプルなドラマであっても感動的に感じられます。
直感的に楽しむことのできるゾンビパニックに、分かりやすいキャラクターというのは、非常に相性がよかったと言えるでしょう。

で、こうしたキャラクターが立つのに大きな役割を果たしていたのが俳優でした。
中でもソグを演じたコン・ユとサンファを演じたマ・ドンソクは、素晴らしい働きを見せていたと思います。
娘を思う父親と妊婦の妻を労る夫という役柄のハマりっぷり、両極端ともいえるキャラクター、それでいて共に死線をくぐることで築かれる信頼関係は見ていて楽しくなるものがありました。
本作はハリウッドリメイクの話も挙がっていますが、果たしてこの二人を上回るピッタリな俳優がいるのでしょうか……?
そう思わせるくらい、俳優がキャラクターを生かしていたように思えました。


王道的なストーリーながらも、革新的な表現により韓国国内のみならず、世界を圧倒した本作。
それは韓国のゾンビ映画として新たな金字塔を打ち立てたと言えるでしょう。
その系譜は、最新作『新感染半島 ファイナル・ステージ』へと受け継がれていくこととなります。
『新感染』というダサい邦題と共に……