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【レビュー】ルース・エドガー(ネタバレあり)

人の感情や思いは口にしなくては伝えることは困難です。

逆に言えば口にしない限りは悟らせないことも可能です。

今回レビューする『ルース・エドガー』は、そんな人の見えない内面について描いた作品です。


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<h3>ストーリー</h3>

バージニア州アーリントンの17歳の高校生ルース・ エドガーは文武両道な模範生であった。

しかし世界史教諭のハリエットが、彼の論文から過激派思想にあると判断し、ロッカーを探ったところ違法な花火が見つかる。

ハリエットは、ルースの母エイミーにそのことを告げた。

だが、エイミーは10年前に紛争地帯エリトリアから養子として引き取ったルースとの確執を作りたくないあまりにそのことをすぐに相談できずにいた。

やがてルースは先にその事実を知ってしまう。

 

<h3>感想</h3>

予告編を劇場で見たときから「なんだこの『ゲット・アウト』や『アス』のあジョーダン・ピール味溢れる映画は!」とテンション上がって見ることを決めていました。

で、その期待に沿っていたかというと、ドストライクでした。

やっていることは完全に心理戦で、議題である「ルースに過激な意志があるかどうか」についてただ争っているだけです。

でも「ルース!どうなの?」と、ハリエットたちが聞いて「いやいや僕に過激派思想なんてないですよ!」と言っても信じてもらえないというストーリーが本当に良くできていたと思います。

紛争地帯で生まれ、そこで7歳まで成長してきたという事実が完全にルースの言う「人物像」を作り上げてしまっているんですね。

「過激派なの?」という問いに「イエス」と答えればテロリスト、「ノー」と答えれば本当のことを言えと怒られる八方塞がりさは笑えてしまう不条理さがありました。

 

そんな心理戦なのですが、俳優たちの貢献度が高かったです。

特に主演のケルヴィン・ハリソン・Jrはヤバすぎました。

本当にどっちが本性なのか、分からないんですよね。

優等生の言動をしているハズなのにどこか闇を感じてしまう不気味さを醸し出しているのは冷や汗ものでした。

実は彼、現在並行して公開している『WAVES/ウェイブス』でも主演をしています。

私は本作を見た翌日に『WAVES/ウェイブス』を見たのですが同一人物だとまったく気づきませんでした。

それくらい、本作との演技の使い分けがされていたんですね。

この二作を見ると、彼は大成するなと確信せざるを得ませんでした。

 

もちろん脇を固める俳優も素晴らしいです。

ルースに対抗する教師ハリエットにオクタヴィア・スペンサー、母親エイミー役にナオミ・ワッツ、父親ピーター役にはティム・ロスと、名優が揃っています。

どの俳優もすごい演技を見せていますが、中でもオクタヴィア・スペンサーはすごかった。

精神が擦りきれ、統合失調症のような扱いを受ける役をちゃんと演じていました。

よくもまああんな役を引き受けてくれたなと、感心するくらいヤバイ役をしっかりと演じていたのですから脱帽です。

 

心理戦がメインと言うこともあって、素晴らしいキャスティングに俳優も全力で応えるという恵まれた環境となっていました。

 

ストーリーと俳優の演技の素晴らしさも然ることながら、本作で驚かされたのが観客に対するアプローチでした。

本作はルースvsハリエット、彼らに振り回される人々という、だいたい3つの立ち位置が存在しました。

私たち観客は、その3つの立ち位置の全ての情報を握っているんですね。

ルースが友人たちを更正させようとする姿も、ハリエットが精神障害を患っている妹へ手を焼いている姿も、エイミーたちがルースへどう接するべきなのか思い悩む姿も、唯一私たちだけが全ての登場人物の情報を持っています。

ただ、それが真実に近いかと言ったらそういうわけでもありません。

それもそのはず、ルースが両親と過ごしてきた10年も、ハリエットとの出会いも知らないわけですから。

それでは私たちはどの立ち位置になるのかと言うと、登場人物全員に振り回される人物となるのでしょう。

登場人物の一挙手一投足に掌を返し、オロオロとさせられる、それが私たちに課せられた役割です。

で、私は見事にその役割をやりきりました。

「ルースが怪しい!」、「両親はルースを信じてあげなさい!」、「ハリエット病んでるな」といった感じに、最初から最後まで踊らされました。

本作はおそらく、見た人によって微妙に解釈が異なってくるハズです。

一から十まで登場人物たちの言動の理由を説明している訳ではないのですから当然でしょう。(落書きや花火を仕掛けた犯人なんかも憶測でしか分かりませんし)

そこを補完するのは、私たちが本作を通して見た登場人物たちの「人物像」です。

誰が善で誰が悪なのか、作品を見た私たちは偏見なく見定めることができるのか、試されているようでした。

そうした観客へのアプローチを含め、良くできた内容だと思いましたね。

 

人が持っている裏の顔の恐ろしさを描いていた本作。

なんだか考え始めると人との付き合い方すら変わってしまいそうになる、ある意味ホラーな作品でした。

【レビュー】WAVES/ウェイブス(ネタバレあり)

青春に挫折は付き物です。

大なり小なり、それを乗り越えることで人は成長すると言えます。

今回レビューする『WAVES/ウェイブス』は、挫折と成長、それに影響される人々を描いた青春映画です。


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本作は開始直後は正直言って面白くなる気が全くしませんでした。

それもそのはずで主人公のタイラーは、レスリングで活躍をし、恋人であるアレクシスとは良好な関係を築き、友人も多く、裕福な家庭で、両親との仲も良い、という問題も不自由もない生活を送っていたからです。

「こんな完璧な男でドラマが描けるのか?」というのが、初めに受けた印象でしたね。

 

そうした「完璧」が崩壊するのは、タイラーのケガしていた左肩が重症であることが判明してからです。

ケガを黙っていたことから症状が悪化し、でレスリングを出来なくなったタイラーは、両親と疎遠に。

そこへ追い討ちをかけるように、アレクシスが妊娠していることが発覚します。

まさに、どん底へとまっ逆さま。序盤の明るい作風が嘘のように暗くなる様子には圧倒されるばかりでした。

 

そうしたフラストレーションが爆発したことから、タイラーはアレクシスを殺してしまい警察に追われる身となります。

絶望するタイラー、嘆く両親の姿は見ていても痛々しいものがありました。

けれど、そうした怒濤の展開は「次はどうなってしまうんだ!?」と好奇心を刺激するのですから皮肉なものです。

あそこまでテンポよく転がり落ちてしまうと、逆に見ごたえを感じてしまう不思議。

息をもつかせぬ転落劇は見ものでした。

 

そうしたストーリーを盛り立てていたのが演出です。

なんと言っても本作は色彩が鮮やか。

背景や室内の内装、ネオンの光などを利用して、さまざまな色合いを演出していました。

他にも、序盤にタイラーがレスリングで試合をしていたり、若者らしく騒いでいたりするシーンでは、彼の周りをぐるぐると回るダイナミックなアングルで撮影されているなど、状況によって演出を使い分けているのも印象的でした。

なにより驚かされたのが、画面の比率です。

タイラーが追い込まれていくに連れて、画面のアスペクト比はだんだんと狭いものへ。

タイラーが感じている息苦しさを、見ている私たちにもそのまま伝えてくるかのような演出を見せていました。

 

このように、タイラーたちへの感情移入をさせるための演出に凝っていたのがすごかったです。

その最たるが挿入歌でした。

本作、ポスター(記事の最初にある画像)にも書いてあるように31曲の曲が売りのひとつとなっています。

それだけに、作品とのマッチが素晴らしいです。

シーンごとに登場人物が抱えている重荷であったり、感情であったりをストレートに伝えているんですね。

また、若者が好むリズム・アンド・ブルース(R&B)やラップが積極的に取り込まれており、彼らの感情をより近くに感じさせてもいました。

さながら登場人物が歌わないミュージカルとでも表現すればいいのでしょうか。

それくらい、登場人物の感情、状況にマッチしていました。

新感覚な演出方法は、作品に常に惹き付ける吸引材となっていたと言えるでしょう。

本作は開始直後は正直言って面白くなる気が全くしませんでした。
それもそのはずで主人公のタイラーは、レスリングで活躍をし、恋人であるアレクシスとは良好な関係を築き、友人も多く、裕福な家庭で、両親との仲も良い、という問題も不自由もない生活を送っていたからです。
「こんな完璧な男でドラマが描けるのか?」というのが、初めに受けた印象でしたね。

しかし、その「完璧」が崩壊するのが本作のポイントであり、面白い所でもありました。
そのきっかけとなるのが、タイラーのケガをしていた左肩です。
このケガを治療せず放置していたことから、症状が悪化しレスリングが出来なくなってしまいます。
それが原因で両親とも疎遠に。
そこへ追い討ちをかけるのが、アレクシスの妊娠発覚です。
まさに、どん底へとまっ逆さま。序盤の明るい作風が嘘のように暗くなる展開には圧倒されるばかりでした。

そうしたフラストレーションが爆発したことから、タイラーはアレクシスを殺してしまい警察に追われる身となります。
絶望するタイラー、嘆く両親の姿は見ていても痛々しいものがありました。
けれど、そうした怒濤の展開は「次はどうなってしまうんだ!?」と好奇心を刺激するのですから皮肉なものです。
あそこまでテンポよく転がり落ちてしまうと、逆に見ごたえを感じてしまう不思議。
おそらく、彼が転落していったとしても最終的に立ち直り、幸せを掴むのであればここまで記憶に残るインパクトはなかったでしょう。
そういう意味では、彼の転落劇は本作の見どころのひとつと呼べるのでしょう。

もうひとつ見どころであったのが、視点の切り替えでした。
本作は2部構成となっており、前半はタイラー、後半は彼の妹であるエミリーの物語になっているんですね。
で、後半に何が描かれているのかというと、タイラーの影響によって崩壊した家族の様子が描かれています。
殺人犯の妹として学校で浮いてしまったエミリーの姿や、それまでは仲の良かった両親たちがお互いを責める様子などは、タイラーが捕まっただけで物語は終わらないリアルさを感じさせました。

しかし本作が素晴らしいのは、物語は終わらないリアルさの中に、憎しみと愛を解いたストーリーを取り入れていたことです。
エミリーの彼氏となるルークの父親の死を挟むことによって、家族である限り、たとえ憎しみを抱くことがあっても愛は失われることがないことを感じさせていました。
それはもちろん、エミリーや彼女の両親にも当てはまっており、愛が崩壊しかけていた家族をつなぎとめる役割を担っています。
作中、教会で神父が憎しみを愛に変えることについて説くシーンがありました。
そこで「Hateは四文字Loveも同じ四文字」というこじつけにも近い説教をしており、聞いた時には「なんじゃそら」となりましたが、終わってみるとなんとなく納得。
憎しみと愛の表裏一体さをひしひしと感じました。

こうした美しいストーリーを盛り立てていたのが演出です。
なんと言っても本作は色彩が鮮やか。
背景や室内の内装、ネオンの光などを利用して、さまざまな色合いを表現していました。
これにより、絶望的な状況でもどこか美しさが感じられ、将来への希望が残されていることを連想させました。

他にも、序盤にタイラーがレスリングで試合をしていたり、若者らしく騒いでいたりするシーンでは、彼の周りをぐるぐると回るダイナミックなアングルで撮影されているなど、状況によって演出が使い分けられていたのが印象的でした。

こうした独特な演出の中でも、驚かされたのが画面の比率です。
タイラーが追い込まれていくに連れて、画面のアスペクト比はだんだんと狭いものへ。
タイラーが感じている息苦しさを、見ている私たちにもそのまま伝えてくるかのような演出を見せていました。

このように、タイラーたちへの感情移入をさせるための演出に凝っていたのがすごかったです。
その最たるが挿入歌でした。
本作、ポスター(記事の最初にある画像)にも書いてあるように31曲の曲が売りのひとつとなっています。
それだけに、作品とのマッチが素晴らしいです。
シーンごとに登場人物が抱えている重荷であったり、感情であったりをストレートに伝えているんですね。
また、若者が好むリズム・アンド・ブルース(R&B)やラップが積極的に取り込まれており、彼らの感情をより近くに感じさせてもいました。
さながら登場人物が歌わないミュージカルとでも表現すればいいのでしょうか。
それくらい、登場人物の感情、状況にマッチしていました。

青春映画と聞くとラブロマンスやドラマといった、映画ばえしないイメージがあるかもしれません。
しかし、本作はそのイメージから一線を画するものがありました。
視覚的にも聴覚的にも楽しめる「映画館で見て良かった!」と断言できる作品でした。

 

【レビュー】悪の偶像(ネタバレあり)

人は車に乗るかぎり、交通事故を起こしてしまう可能性が常にあります。

もし、起こしてしまった場合、普通は警察救急車を呼ぶでしょう。

しかし、まれに轢き逃げをしてしまう者もいます。

今回レビューする『悪の偶像』は、轢き逃げ事件を権力でもみ消そうとしたことで、とんでもない事態に発展してしまう作品です。


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この作品、あらすじだけ見ると政治家が権力を使い息子の起こした轢き逃げ事故を隠ぺいしようとし、遺族の家族がそれに反発するという、日本でも見たことあるようなサスペンス映画です。
実際、やっていることはそれに近いのですが、本作の歪んだ作風には圧倒されるばかり。
生々しい死体に、暴力的な言動、血なまぐさい展開が次々と巻き起こり、エスカレートしていく流れには目が離せませんでした。
これぞまさしく韓国ノワール映画と呼べるでしょう。

 

で、それが加速するのが事故の唯一の目撃者である移民のリョナを市議会議員であるミョンヒと遺族の父親ジュンシクがそれぞれ探し始めてから。
そこでジュンシクは、リョナが異常な性格を内に秘めていることを知ります。
一方、リョナを見つけたミョンヒは彼女を監禁したあげく、その手がかりを掴んだ男を口封じのため殺してしまうんですね。
轢き逃げ事故をめぐる話であったとは到底思えない展開に「なんじゃこりゃ」と困惑せずにはいられませんでした。

 

終盤にかけてはもっとその困惑が増していく展開が待っていました。
妊娠しているリョナを救いたいジュンシクは、ミョンヒからの示談を受け入れ、一連の轢き逃げ騒動は解決……かと思いきやリョナが自分を貶めた人間への復讐を始めて死人がドバドバ出始めます。
彼女自身を殺そうとした男、その目撃者の同僚、出生について悪口を言ったミョンヒの母親を次々に殺害する異常さにはただただ恐怖するしかありません。
もちろんジュンシク本人にも妻を巻き込むというえげつない形で傷を追わせますし、ジュンシクには彼女の罪を全部押し付けるという全方位攻撃でした。
作中、リョナの姉(異父姉妹)が「リョナは怪物」という風に言っていましたが、まさにその表現がピッタリ。
たしかに本作に登場するキャラクターはほとんどゲスい人間ばかりでした。
それでも、流石にあそこまでの制裁を受けるとなると同情せざるを得ない結末でしたね。

 

こうして見ると分かるように、本作は良くも悪くも不安定な映画でした。
それは作風にも表れており、狂気染みた行動を取るキャラクターばかりなのに、その行動の理由について明確な説明がないのがそれに当たります。
そもそも冒頭からジュンシクの「息子の自慰行為を手伝ってたのが唯一してやれたこと」なんてモノローグからして、結構おかしな始まり方でした。
しかも、後々(上映後2時間くらいして)「パイプカットしていた」なんて事実も判明しますし、意味深な表現が多かったです。
おそらく何度も見て不明点を紐解いていけば、理解できるのだと思いますが、私の読解力では一度で全ての意味深な謎を読み解くのは無理でした。
まあ、それを抜きにしてもノワール要素で「ヤバイことが起きてる!」という楽しみ方はできたので不満はありませんでしたが。

 

轢き逃げ事件から全てが始まり、血なまぐさい結末へと向かっていった本作。
これまで見た轢き逃げを権力で封殺するような作品ではまず見らないような残虐な展開は、韓国ノワールでしか見られないある意味面白い作品でした。

【レビュー】さらば青春の光(ネタバレあり)

青春とはいい思い出ばかりではありません。
時にバカをやり、時に傷つく。

後から振り返ると「なんでこんなことしたんだ?」と思うようなことなんていくらでもあります。
けれど、青春時代が光り輝いていた事実に変わりはありません。
そんな青春の輝きと、後悔を描いたのが今回レビューする『さらば青春の光』です。

 


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この作品、1960年代のイギリスの時代が色濃く描かれていました。
というのも、「モッズ」に所属する青年ジミーが「ロッカー」との対立の末に、大人にな

るということを学ぶからです。
今時、スーツとモッズコート(M-51)を着て、バックミラーをわんさか付けたスクーターで街を疾走していれば、指さして笑われSNSに挙げられるでしょう。それは「ロッカー」もですが。


とはいえ、それが当時の若者の流行であったことは明らかです。
自らの仕事をほっぽり出して、危険も顧みず「やられたらやり返す」の精神で挑む熱意は本物と言うしかないでしょう。

そんな熱意は、冷めた目で見ればバカバカしく思えるかもしれませんが、少なくとも私には光り輝いて見えました。

スーツをオーダーメイドで新調し、バイクを大切な宝物のように整備する姿は、微笑ましいばかり。

大麻を吸うのは、微笑ましい……とは流石に言えませんが、やりたいことをやりたいようにやる姿は輝いて見えました。
終盤に巻き起こるデモのエネルギッシュさは、やっていること自体は間違っていても眩しささえ覚えたほどです。

 

そのため、ジミーが挫折と成長を迎える展開には素直に応援したくなりました。
親から勘当され、仕事はクビになり、彼女は寝取られ、バイクは車でペシャンコにされ…

…これでもかと、現実を突きつける様は痛烈です。
オマケに、外面はカッコよく決めている「モッズ」のエースは現実社会に出ればただの荷物持ちなわけですから流石のジミーも目を覚まします。
そうした、彼の理想が崩壊していく様を決して悲観的に見せていないのが良かった点でした。
ジミーの胸中を爆発させたかのように、パンクミュージックをラストシーンまでノンストップで3曲もかけるノリのよさに悲観的な要素は微塵もありません。
そのため、ラストシーンでの「モッズ」との決別には、彼の成長に拍手を送りたくなるある種の爽快ささえ感じられました。

まさに青春叙事詩と言える終わり方であったと言えるでしょう。

 

さらば青春の光』は公開からおよそ40年の月日を経て、2019年にデジタルリマスター版として劇場で公開されました。

それはこの作品が青春の思い出と同様に、色あせない物だということを思わせました。
青春はいつかは決別するものですし、決して戻りません。

けれど、その光が失われることがないことをこの作品は教えてくれています。
人が青春時代にバカをやり、成長し続ける限り、この作品は光り続けるのでしょう。

【レビュー】オーシャンズ8(ネタバレあり)

オーシャンズ』シリーズといえばカッコいい男たちがスマートに強盗を行う人気シリーズです。

その精神的続編であり、主要キャラクターを女性に交代したのが今回レビューする『オーシャンズ8』です。


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豪華女優陣が8人集まって目指せ1億5千万ドルの宝石!というなんとも分かりやすいストーリー。

仲間を集め、作戦を立て、準備をしてから実行に映す。

本作でやるのはただそれだけ。けど、それがいい!

シンプルで分かりやすいストーリーは取っ付きやすく、売りでもある美しい女優陣を堪能する時間にじっくり当てられます。

もちろん彼女たちを彩る衣装にも力が入っており、シーンごとに変わるという美しさを見せていました。

その最たるはメッドガラのシーン。

各女優がセクシーなドレスに身を包み、きらびやかな装飾品を身に付けた姿はそれだけでも圧巻でした。

これを見られるだけでも本作を見た価値があると言っても過言ではないでしょう。

 

当然のことながら、本筋である宝石強盗にも力が入っていました。

現代だからこそ受け入れられるハイテク機器を駆使した計画は、これまでのシリーズにはなかったワクワクを与えてくれます。

シリーズお約束でもあるアクシデントがあるのもまた一興。

保険屋フレイジャーの魔の手が伸びてきたりと、一筋縄では行かないハラハラさせられる展開は見ごたえがありました。

それでも最後にはスマートに決めるのですからその爽快感は気持ち良かったですね。

宝石総取りという二段階のオチがついていたのも良いサプライズでした。

 

このように痛快で楽しめるストーリーになっていたのは、キャラクターの個性があったからでしょう。

リーダーのデビー(サンドラ・ブロック)や相棒のルー(ケイト・ブランシェット)を初め、ユーモアたっぷり、美人揃いのキャラクターが集結するのは、ストーリー同様に取っ付きやすかったです。

各々、役割もしっかりと確立されており、まごうことなきチームとしてまとまっていたのが印象的でした。

そして、本作で外せないのが(一応)ターゲットとなるダフネ(アン・ハサウェイ)です。

セクシーでありながらどこか可愛らしさも持ち合わせた魅力。

おバカなのかと思いきや頭の回る頭脳派で、時折見せる小悪魔な笑顔は破壊力抜群でした。

他にも、デビーの因縁の相手クロードにリチャード・アーミティッジが起用されていたり、メッドガラには有名タレントが多数カメオ出演していたりと、遊び心もバッチリ。

キャストへの愛が感じられる作りでした。

唯一、残念なのはジョージ・クルーニーが出演していないこと。

作中で死んだと言われていましたが、確実に復活してくると思ったのに……

 

オーシャンズ13』から実に11年ぶりに公開された本作。(2007年→2018年)

俳優総取っ替えのリブートではあるものの、シリーズのDNAは至るところに生かされていました。

ぜひとも3部作構成にして、『オーシャンズ11』とのつながりを作って欲しいものです。

【レビュー】幽霊と未亡人(ネタバレあり)

幽霊と人間の恋と聞くと、おそらく多くの人が『ゴースト/ニューヨークの幻』(1990)を思い浮かべるでしょう。

その斬新なラブロマンスは、感動とときめきを与えてくれました。

しかし、それからさらに遡ることおよそ40年。

1947年に幽霊と人間のラブロマンスを描いていた作品が今回レビューする『幽霊と未亡人』です。


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本作はタイトルからも分かるように、主人公であるルーシーは夫を亡くした未亡人です。

夫の死から1年が経ち、継母とその娘が暮らすロンドンから港町ホワイトクリフへと引っ越します。

そこで、幽霊の出る家"カモメ荘"なる邸宅に暮らすようになるまでが話の導入です。

 

そんな幽霊と未亡人によるラブロマンスが、本作のメインテーマでもありました。

あらすじだけ聞くとあたかもルーシーが死別した夫と再会する、それこそ『ゴースト/ニューヨークの幻』を思い起こさせる内容なのですが、夫が全く無関係であるのが驚きです。

 

では、相手は誰なのかというと"カモメ荘"を建築し、住んでいた船長であったダニエルでした。

皮肉屋で傲慢な性格でありながらも、死因がヒーターのつけっ放しによるガス中毒死というおっちゃこちょいな一面も持っている男です。(しかも周りからは自殺と思われています)
むちゃくちゃ通る声と、髭が印象的なおっさんでした。

 

そんな一癖も二癖もある人物だけに、ルーシーとは初めの内、打ち解けることが出来ません。

というか、ルーシー自身も結構な癖のある性格をしており、不動産屋に散々曰く付きだと言われている"カモメ荘"に対して「幽霊が出るの?興味深い所ね!」と、自ら進んで借りていました。

幽霊であるダニエルと初対面の時も「幽霊なんて怖くないわ!」と、強気な態度を取っており、あくまで対等な関係を維持していたのが印象的です。

 

そんなわけで、打ち解けられない二人なのですが「"カモメ荘"が好き」という共通点から共同生活を始めることに。

赤の他人であった男女がひとつ屋根の下、生活出来たのはダニエルが幽霊であったからこそでしょう。

いくら"カモメ荘"を愛する二人とはいえ、生身の男女が同棲してたらふしだらな女とか噂が立っちゃいますからね。

 

この、ルーシーにしかダニエルが見えていないというのもポイントでした。

この特徴を生かして、ダニエルはルーシーを様々な外敵から守るんですね。

例えば、寄ってくる男を撃退したり、継母とその娘との縁を切らせたりといった感じです。

若干、(というか8割がた)独断と偏見が入り混じっていましたが、ルーシーを想っているのは伝わってきましたね。

また、継母たちの来訪時、姿の見えないダニエルとルーシーが会話しているのを見て、彼女が精神的におかしくなったと思う展開はコメディらしさもありました。今となっては幽霊映画のお約束。

 

で、二人の関係が一気に縮まるのが、生活費を稼ぐためにダニエルの半生をルーシーが代筆するようになってから。

「これが本当のゴーストライターか……」なんてくだらないことを考えながら見ていましたが、このシーンは本当に大事なシーン。

船乗りの性とダニエルの船乗りたちに対する敬意を持った態度は、なるほど確かにカッコイイです。

ルーシーが恋心に気づきながらも、相手は幽霊であるだけに何も出来ないのがもどかしいばかりでした。

 

このように、ラブロマンスにありがちな関係に溝ができる展開もダニエルが幽霊であることが起因していました。

ルーシーが偶然出会った男フェアリーといい感じな雰囲気を漂わせているのを見て「生きている男がいいんだな!」とダニエルが嫉妬したり、それがきっかけで仲たがいをしてしまいダニエルがルーシーの前から姿を消したり(物理的に)と、幽霊であることを最大限に生かした恋の駆け引きを見せていたのが面白かったです。

ラストシーンでは、死=終わりとしてではなく、再会として描いており、死んでしまうことや幽霊になってしまうことよりも、孤独であることの方が不幸であることを描いていたのが印象的でした。

 

全体を通して、CGが主流でもない時代だけあって基本的にダニエルは他の人間と同じようにしか見えません。

けれど、常に暗闇や死角から現れたり、ルーシーとは肉体的接触をしていなかったりと、そうした「CGがないからこその努力」が見れるのは昔の映画の良さであったと思います。

どうやったのかは分かりませんが、ダニエルが半透明になって消えていくシーンなんかもあって(コマ送りで背景のシーンと同化させた?)、力の入りようが窺えるのが良かったです。

 

昔の映画でありながらも斬新な設定を取り入れ、それを最大限生かそうとする姿勢に感服させられる作品でした。

【レビュー】ハンター(2011)(ネタバレあり)

ハンターと聞くと冷酷かつ残忍なイメージがありますよね。
しかし、動物の命を取る彼らだからこそ最もその価値を理解しているとも言えるのかもしれません。
そんなハンターを名優ウィレム・デフォーが演じたのが今回レビューする『ハンター』です。

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この作品、アマゾンプライムのおすすめ映画として2週間ぐらいずっと出続けていたので見てみました。
で、率直な感想。

なんてものをおすすめしてくるんだアマゾンプライム

いや、たしかに作品は悪くないです。
ハンターであるマーティン(ウィレム・デフォー)が、バイオ企業「レッドリーフ」からの依頼でタスマニアデビルを追い求めてオーストラリアの森林地帯へ行くというストーリーで、森林保護vs森林伐採の争いに巻き込まれたり、宿泊所として住み込む家の未亡人ルーシーとその子供2人と仲良くなったりと、見所もありましたから。

ただ、いかんせん終わり方に救いがなさすぎます。
ルーシーたちが待っていた父親は既に山中で亡くなっており(「レッドリーフ」の陰謀によって殺害)、さらに彼女たちも焼死させられるというなんとも非情な展開には胸を締め付けられる思いでした。
マーティンが唯一生き残っていたルーシーの息子ジェイミー(またの名をバイク)と再会をすることで、若干希望は感じさせていたものの、ハッピーエンドかと言われると首をかしげるしかありません。
結局、登場人物全員が不幸になって、諸悪の根源である「レッドリーフ」が打撃を大きく受けたという事実に救いを感じるしかないのでしょう。

で、こうした展開になってしまうのは絶滅危惧種であるタスマニアデビルに手を出したから。
作中でもルーシーが「争うくらいならいっそ絶滅してくれた方がいい」と言っていたように、不毛な争いが勃発し、誰も得をしない結末を迎えるわけです。
マーティンがタスマニアデビルに遭遇して撃ち殺してしまったのも、それまでの展開を見ていると自然なことのように思えてハンターという立場の理不尽さを思わせましたね。
絶滅危惧種を追い立てることはこんなにも不毛なんだ!」という、メッセージめいたものを感じさせる内容だったと思います。

そんな狩りがメインな作品なだけに、上映時間の4~5割はマーティンが山の中で活動をしている様子が描かれています。
山の中を探索したり、食事となる獲物を狩ったり、トラップを仕掛けたりと、とにかく黙々と作業をしていたのが印象的です。
個人的には、そんな映像でも割とワクワクできたので、満足度は高めでしたが「これじゃあネイチャードキュメンタリーみたいだな」と思ったのも事実でした。

で、そこへアクセントを加えていたのがウィレム・デフォーです。
なんだか年を取るごとに味が出てカッコよくなっていく彼に、本作の孤高なハンターという役柄はとても合っていました。
それだけに、何をしてても絵になってしまうんですね。
森を歩こうが、トラップを仕掛けようが、とにかく渋くてカッコイイ!
一方で、宿泊先の子供たちに振り回されたり、父親役として面倒を見たりと、孤高とは真逆な一面を見れるのも素敵でした。
彼の魅力の一つでもある青い目が、至る所でその美しさを見せていたのが印象的でもありました。

スッキリ爽快とはいかず、終わった後に絶滅危惧種への経緯と虚しさを残していく本作。
とはいえ、ウィレム・デフォーの哀愁漂う姿を見ていると、その虚しささえも美しく見えてしまう不思議さがありました。
人に強くはオススメしたくありませんが、デフォー好きには絶対に見てもらいたい作品でした。