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【レビュー】マイ・フーリッシュ・ハート(ネタバレあり)

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ストーリー

1988年5月13日午前3時。
アムステルダムのホテルに宿泊していたチェット・ベイカーが窓から落下して死亡した。
現場へ捜査に来た刑事ルーカスは、ホテルの窓から覗き混む人影を目撃する。
しかし、彼がホテルの部屋にたどり着く頃には部屋は無人となっていた。
なぜチェットは死んだのか、その真相を追う内にルーカスは奇妙なつながりを感じ始める。

感想

私がチェット・ベイカーというジャズシンガーを知ったのは結構最近のことです。
きっかけは、イーサン・ホーク主演の2015年公開作『ブルーに生まれついて』という作品。
彼の挫折と苦悩を描いたそれはイーサン・ホークの魅力的な歌声もあって、チェット・ベイカーという男に興味を持たせるには十分でした。
しかし、挫折と苦悩という言葉からも分かるように、彼は真人間とは程遠い存在であったことが描かれていました。
そんな彼の晩年期を描いていた本作。イメージするチェット・ベイカーの再現がよく出来ていたと思います。
クスリを常用し、金欠気味、孤独で、あるのはトランペットと歌だけというのは『ブルーに生まれついて』でも見た、彼らしさを感じさせました。
そして、なによりスティーブ・ウォールの歌声がいい!
イーサン・ホークが演じたチェット・ベイカーと同じく、甘く蕩けるような低音は、聞いていて心地よかったです。(ちなみにスティーブ・ウォールはロックバンドのボーカルを務めているのだとか)
唯一残念であったとすれば、私の家のテレビが低スペックなせいなのか、ところどころ音割れしてしまったということ。
映画館であったり、高性能なスピーカーであったりを使っていたらおそらく起こらない事象であるだけに音響の見直しを検討させられました。
とはいえ、高スペックな音響が無ければ拾いきれないくらいの低音で歌えるのが凄いというしかありませんね。

チェット・ベイカーといえば、のトランペット演奏も、うっとりさせられる美しい音色を奏でていました。(こちらはスティーブ・ウォールがやっていたか分かりませんが)
普通なら音が掠れたり、上ずったりしそうな所でも滑らかに演奏する技術は、トランペット奏者の代表としても挙げられるチェットの凄さを体感させてくれました。
また、彼は金銭絡みの問題で顎を砕かれ前歯を折られたという過去を持っています。(本編中では語られていなかったと思います)
そうした、顎の痛みや義歯の違和感を気にする仕草をしっかりと表現していたのが個人的には好印象でした。
演奏シーンだけで言うなら、チェット・ベイカーの高い再現度で見所を作っていたと言えるでしょう。



そんな実在した人物を取り扱っている本作ですが、冒頭には「これは真実の物語ではない」と表示されます。
それもそのはずで、本作はあらすじにも書いたように、本作は刑事ルーカスがチェット・ベイカーの死の真相を追うという内容でした。
チェットと似た境遇(人間関係の不和や妻へのDV行為など)であるルーカスが、彼の死の真相を追う内に引き寄せられていく流れは、なかなか面白い試みだったと思います。
チェットの影が壁に映っていたり、機械越しのチェットの演奏がクリアに聞こえていたりと、少しずつルーカスとチェットの距離が縮まっていく演出は良くできていました。
ただ、圧倒的にテンポが悪いし盛り上がりがないため、ストーリーが全体的に面白くないというのがマイナスポイント。 この作品を見ようと思う人は基本的にチェット・ベイカーの実話を知りたいような層だと思うので、正直テーマが悪かったようにも感じられますね。



チェット・ベイカーを題材に、一風変わったフィクションを取り入れていた本作。 内容はイマイチではありましたが、演奏シーンは素晴らしく見たかいはある作品でした。