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【レビュー】イップ・マン 完結(ネタバレあり)

10年というのは長い期間です。
その10年を通してイップ・マン(葉問)の37年の半生(1935-1972)を描いたのが『イップ・マン』シリーズとなります。
その最終作4作目が今回レビューする『イップ・マン 完結』です。

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ストーリー

1964年、香港。
詠春拳の達人であるイップ・マンは武館を営みながら息子チンと共に暮らしていた。
しかしある日、チンがケンカが原因で退学処分となってしまう。
自身がガンであることを知ったイップは、チンを独立させるためにもアメリカへ留学させるため、下見として現地へ飛んだ。
そこで、かつて弟子であったシウロンことブルース・リーと再開を果たす。

感想

過去3作を通して、一戦たりとも敗北することなく、安心安定の活躍を見せていたイップ・マン。
しかし、本作では初めてその戦闘シーンに暗雲が訪れることに。
それもそのハズで、本作の序盤にイップは咽頭ガンであることが明かされるんですね。
これはなかなかに衝撃的。 前作で妻のウィンシンが命を落としたのもガンであり、逃れられぬ運命めいたものを感じさせました。
なお、実際にはイップ・マンの死は「病死」となっており、ガンかは不明。あくまでフィクション上の設定らしいです。
とはいえ、だんだんと体がボロボロになっていき、戦いにも支障を来すレベルにまで至ってしまうのは見ていてハラハラさせられました。
ストーリー上、仕方がないとはいえ、無双とならないのは若干モヤモヤする戦闘でもありました。

しかし、さすがはイップ・マン。詠春拳のキレは顕在でした。
それだけに、戦闘シーンの楽しさはこれまで通りで一安心。
中華総会のトップであるワンの太極拳と勝負をしたり、米軍のバートンやコリンが使う空手と勝負したりなど、見どころが多いのも安定した面白さにつながっていました。
また、本作ではブルース・リーの戦闘シーンも取り入れられており、イップ・マンを語る上でも欠かせない人物であることをひしひしと感じさせていましたね。



そんな本作、ストーリー上重要となるのが差別問題でした。
アメリカ人たちは突然やってくるようになった中国人たちが憎く、中国人たちはそんなアメリカ人たちの態度が気にくわないという、双方歩み寄ろうとしないことによる悪循環を見せていました。
まあ、一部のアメリカ人(バートンやコリン)による白人史上主義は酷いもので、彼らのアジア人差別、黒人差別を見ていると白人の方が比較的悪そうには見えましたが……

それらを正すのがイップの役割でした。
これまでも信念を守り、誇りを守ってきた彼だけに「武闘家として不正を見過ごせない」というあり方には説得力がありました。
単純に強いだけでなく、こうした意思の強さがあるのがイップ・マンの魅力だと言えるのでしょう。



そんなイップ・マンの変わらぬ姿がある一方で、世界は着実に変化していたのが本作で印象的な所でした。
イップが渡米したり、女子高生と仲良くなったり、米軍相手に死闘を繰り広げたりするなんて1作目を見た時には思いもしませんでしたからね。
彼が道着を着て飛行機に乗る姿からして時代とのチグハグさを感じましたし、これまで以上に現代に近づいている感覚がありました。

その感覚は武術にも当てはまっています。
イップが仲良くなる女子高生ルオナンは、父親の太極拳を継ぐことを嫌い、チアリーディングの夢を追うことを決意していました。
そしてそれを後押ししたのはイップ自身です。
彼は、息子のチンを留学させて広い視野を持たせようとするなど、次の世代の変化を推奨する動きを見せていました。
一方で、彼自身は古臭いやり方……すなわち拳と拳をぶつける方法であらゆる問題を解決しています。
しかしそれは、そうしなければならない状況であり、彼が死を迎えようとしているからでした。
そうした意思を表すかのように、シリーズ内でイップ・マンが絶対に出さなかった金的攻撃や喉への攻撃をするのは印象深かったです。
変化していく世の中で、イップ・マンが最後に正義を詠春拳を通して残していくのは胸を熱くする展開でした。
また、息子のチンがそれを受け継いでいくというのも、感動的な話でした。



イップ・マンの最後の勇姿をを描いていた本作。
ラストシーンでは彼のこれまでを回想するシーンもあり、ファンに対するサービスも存分にありました。
多くの伝説を残してきたイップ・マンの物語はこれからも様々な形で語り継がれていくのでしょう。