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【ネタバレなし・映画紹介】チャイナタウン | ジャック・ニコルソン×フィルム・ノワール!

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チャイナタウンといえばその名の通り、外国へ移住してきた中国人たちが居住する区域のことを指します。
アメリカのみならず、日本でも「中華街」としてチャイナタウンは国に一種の文化として根付いていると言えるでしょう。
今回はそれをタイトルに冠した作品『チャイナタウン』を紹介していきます。


作品概要


原題:Chinatown
製作年:1974年(日本公開:1975年)

監督:ロマン・ポランスキー
脚本:ロバート・タウン
主演:ジャック・ニコルソンフェイ・ダナウェイ


ストーリー

ロサンゼルスで探偵業を営むジェイク・ギテス(ジャック・ニコルソン)は、モーレイ夫人から夫であり市の水道局幹部のホリスの浮気調査を依頼される。
ギテスはホリスが会っていた女性を突き止めたものの、その内容をマスコミに知られホリスの情事として新聞に大々的に取り上げられてしまう。
そこへモーレイ夫人が現れるが、彼女はギテスに依頼してきた人物とは別人であった。依頼主であったモーレイ夫人が偽物であった。
さらにホリスが溺死体として発見され、ギテスは謎を追い始める。


オススメポイント

渋くて熱いジャック・ニコルソンの魅力

ジャック・ニコルソン出世作といえば『イージー・ライダー』(1969)です。
それから5年、最も脂の乗っている時期に彼が出演したのがこの作品でした。
スーツと中折れ帽をトレードマークに、浮気調査の対象であった男の不審死を探るため、ロサンゼルスを駆けずり回る姿は印象的かと思います。
とはいえ、その風貌は善人というより悪人に近いです。捜査の途中で顔にケガを負ったことからそのイメージはますます高まることに。
見た目がマフィアのようなニコルソンが殺人事件を追っているという構図は、なかなかのインパクトを残すことでしょう。

そんな悪党っぽさは、彼が演じるギテスにも表れています。
プライバシーの侵害や盗み、暴力沙汰に身分詐称まで「捕まらなければOK」とでも言わんばかりの暴走っぷりは型破り。
そんな枠にはまらない奇抜な探偵に命を吹き込んでいる、ジャック・ニコルソンの熱演は一見の価値ありです。

抗いがたい魅力を放つロサンゼルス/フィルム・ノワール

フィルム・ノワールとは、アメリカ社会の殺伐とした特色をシニカル(皮肉屋)な主人公を通して描く犯罪映画のことを指します。
この作品は、まさにそのイメージにピッタリ。
シニカルな主人公ギテスを中心に、ロサンゼルスを舞台とした犯罪模様が描かれるわけですからね。
ただし、それだけに止まらないのが本作の良さ。
フィルム・ノワールが確立された1940、50年代の白黒映画が持つ、影を使った独特な表現をカラーで見事に再現。
撮影手法や間の取り方なども完璧で、本作ならではの作風を作り上げています。
フィルム・ノワールのなん足るかを知り尽くしたロマン・ポランスキーが見せる、ロサンゼルスを舞台としたフィルム・ノワールはハマる人には堪らない雰囲気となるでしょう。

予想のつかない事件展開

本作、演出のみならずストーリーの重厚さも目を見張るものがあります。
脚本を務めたのはロバート・タウン
前年1973年の『さらば冬のかもめ』で大きく飛躍し、のちには『ザ・ファーム 法律事務所』や『ミッション:インポッシブル』でも脚本を務めるようになる、才能豊かな人物です。
本作ではロサンゼルスの各地(時には高級住宅街、時には海岸線、時にはギテスの事務所など)を舞台に、登場人物の性格や過去、思惑などが複雑に絡み合った一種小説のような面白さを見せていました。
セリフ回しも印象に残るものが多く、それが作品に重大な意味を持たせることに気づかされた時には鳥肌モノです。
チャイナタウンが舞台でもないのに、タイトルを『チャイナタウン』としている理由を含め、よく出来た骨太なストーリーは、演出ともマッチして素晴らしいものとなっていました。


見る前に知っておきたいポイント

この作品、上でも少し触れていますが監督はロマン・ポランスキーです。
彼の人生を語る上で欠かすことの出来ない存在が、シャロン・テートでしょう。
彼らは1968年に結婚したものの、翌年の69年にチャールズ・マンソンによりテートが殺されたことから死別してしまいます。
そんな傷の癒えていない1974年に制作されたのが本作でした。

その中でも、見た人の心に大きな印象を与えるのがおそらくラストシーンでしょう。
脚本家のロバート・タウンと衝突しながらもポランスキーが押し切る形で実現したこのシーンは、件のシャロン・テート事件を踏まえると考えさせられるものがあります。

作品は、アカデミー賞で作品賞、監督賞他、11部門でノミネートされるほどの高評価を受けました。(ゴールデングローブ賞では監督賞を受賞)
しかし、ポランスキー自身は本作の3年後の1977年、児童に対する性的行為の疑いで逮捕されたことをきっかけにアメリカを捨てることに。
彼はそれ以来、アメリカの地に足を踏み入れていません。(『戦場のピアニスト』でアカデミー賞を受賞したにも関わらず欠席したのは有名な話)
ハリウッドで制作した最後の作品となった本作は、ポランスキー監督にとっても大きな転機となった作品です。
それを踏まえて見ると、より名作感が増すのではないかと思います。