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【ネタバレあり・レビュー】恋愛小説家 | ジャック・ニコルソンによる偏屈男の恋愛譚!

恋の駆け引きに置いて大切なこと。それは、相手を思いやることです。
いかに相手を気遣い、共感し合えるかがキモだと言えるでしょう。
今回レビューする『恋愛小説家』では、ジャック・ニコルソン扮する、潔癖症で偏屈な男が愛を手に入れようと奮闘する物語です。

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ストーリー

マンハッタンに暮らす小説家メルヴィンは、潔癖症で偏屈な男であった。
そのため、周りからは疎まれていたが、それを意に介すことなく日々を送っていた。
そんなある日、通いつめているレストランのウエイトレス、キャロルが子供のぜん息を理由に休みがちになってしまう。
さらに、隣人の画家サイモンが強盗に襲われたことから、飼い犬の世話もするようになった。
これまで誰も寄せ付けてこなかった彼の生活が変わり始めるのであった。

感想

タイトルからして、甘々なラブロマンスを連想しながら鑑賞。
すると意外なことに、甘さはほとんどなくむしろ苦み抜群の超クセのある内容でした。

そのクセとなっているのが、メルヴィン、キャロル、サイモンの3人が抱える問題です。
潔癖症かつ偏屈であるために人から受け入れられないメルヴィン。
ぜん息の息子を抱えながらも誰にも頼ることのできないキャロル。
画家の仕事でモデルとして雇った青年に裏切られ心身ともに傷ついたサイモン。
そんなボロボロになった3人が、お互いに傷つけあって自己嫌悪してしまうやり取りは秀逸。
中でもメルヴィンの毒舌はブラックユーモアもあってなかなか聞き応えのあるセリフでした。

一方で、自己嫌悪に陥った彼らが自分の振る舞いを見直したり、互いに影響しあって逆にポジティブになったりと、似た境遇に置かれた者同士で支えあっていたのが素敵であったと思います。
作中、メルヴィンがキャロルに対して誉め言葉として告げる「これまで持病の薬は絶対に飲まなかったのに君に会ってから飲み始めた」というセリフは、人間関係が与える変化というテーマを象徴しているかのようでした。

それはラストシーンにも当てはまっていました。
それまで、潔癖症により決して地面の線を踏まなかったメルヴィンが、キャロルの立つ煉瓦の床(継ぎ目の線だらけ)の方へ一歩踏み出すシーンは、明らかに彼がいい方向に変わっていたことが分かりました。
他にも、執拗なまでに確認をしていた鍵締めを忘れていたりと、明確に彼の変化を描いていたのが印象的でした。

さて、こうした人と人とのやり取りがポイントなっていたこの作品ですが、その大きな役割を果たしていたのが俳優陣でした。
中でも、主演のジャック・ニコルソン、ヒロイン役のヘレン・ハントの演技には目を見張るものがありました。
まず、ニコルソンですが、潔癖症であるために常に神経をとがらせていることがひしひしと伝わってきます。
そこから生まれたであろう偏屈な性格は本当に面倒くさい男というイメージを定着させていました。
一方で、キャロルと出会ってからはたどたどしく距離を詰めようと模索している姿が見られてメルヴィンに好感が持てたのも事実。
ニコルソンの演技によって、ただの嫌味な男ではなく、社会からはぐれてしまった男として共感できるようになっていたのが魅力としてありましたね。

ヘレン・ハントは、そんなメルヴィンに振り回される機会が多かったです。
変わり者の彼に時には困惑し、時には傷つけられる姿は、なかなかに可哀想。
けれど、彼女自身も精神的に不安定な面もあって、八つ当たり気味に感情的になったり、息子にやたら過保護であったりしました。そうした人間味あふれる所もまた魅力であったと言えるでしょう。
ハントの演技によって、メルヴィンが惚れたのも頷ける完璧すぎない女性となっていたと思います。

全編に渡って、2人(あるいはサイモンを加えた3人)の駆け引きがメインとなっていただけに、演技力のある俳優で固めていたのは非常に見ごたえがあってよかったです。
ロマンチックなシーンもコミカル(的外れなことを言って「やっちゃったよ」となる)シーンなんかもこなせるというのは、作品の表現の幅を広くさせていました。
つくづくジャック・ニコルソンはクセのあるキャラクターが合うな、と思わずにはいられませんでした。


潔癖症で偏屈な男が、恋をすることによって変わっていく様子を描いていた本作。
まるで小説のようなつぶさな表現やセリフ回しは『恋愛小説家』というタイトルにも当てはまるものがあったと思います。(原題は「これ以上ない最善」という意味の『As Good as It Gets』。こっちのタイトルの方がいい感じな気がします)
そこへ映画らしさを付加したのは演技力の高い俳優陣。
クオリティの高い作品を作り上げる上で、俳優の存在が欠かせない事を痛感させられる作品でした。