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【コラム】さよなら、ユジク阿佐ヶ谷!その歴史と思い出についてのまとめ!

2020年12月9日。
ひとつの映画館が閉館しました。
その名は「ユジク阿佐ヶ谷」
2015年4月25日にオープンしてからおよそ5年7ヶ月(2020年8月28日の休館からそのまま閉館であるため実質5年4ヶ月)阿佐ヶ谷に2館しかない映画館として愛されてきました。
今回はそんなユジク阿佐ヶ谷についてのいろいろなまとめと思い出話について書いていきます。


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ユジク阿佐ヶ谷はどんな劇場だったか

ユジク阿佐ヶ谷は、その名の通り阿佐ヶ谷に存在した映画館でした。
阿佐ヶ谷駅からは徒歩2,3分。非常に小さな劇場ではあるものの、阿佐ヶ谷に2つしかない劇場(洋画も取り扱っているのはここだけ)ということもあって、平日、土日祝、いついってもそこそこ人が入っていた印象がありました。

ちなみに「ユジク」は、ロシア(当時はソビエト連邦)のアニメーション作家ユーリー・ノルシュテインの『霧の中のハリネズミ』(1975)に登場するハリネズミのヨージックに由来しているらしいです。
この作品はユジク阿佐ヶ谷の劇場でも「ユーリー・ノルシュテイン特集」と称して上映されており、その思い入れの強さを感じさせていました。

そんなユジク阿佐ヶ谷ですが、先ほども書いたように非常に小さい劇場です。
座席数は41席、補助席で最大48席まで確保されていますが、この7席は確かパイプ椅子でした。補助というより臨時の席です。
スクリーンは120インチ(だいたい横幅が2m50cm、縦幅が1m50cmくらい)とこれまた非常に小さめ。これがホントのミニシアターです。

では、強みはどこにあったかというと、単純に映画への愛にあったと思います。
その1つがラインナップ。
先ほども書いた「ユーリー・ノルシュテイン特集」のように、色々と銘打って特集を組むことが多かったわけですね。
監督から俳優、似たジャンルetc...新しい作品から古い作品まで幅広く網羅していたのは純粋に素敵でした。
ウェス・アンダーソン監督特集」や「エル・ファニング特集」が覚えている中でも印象的です。(東京なので見にいけていませんが)
ちなみに、ユジク阿佐ヶ谷で初めて公開された映画は才谷遼監督作の『セシウムと少女』、対して最後に上映されたのはヴィットリオ・デ・シーカ監督作『ひまわり 50周年HDレストア版』でした。
これまで上映されたラインナップは、公式HPにまとめられています。ここら辺も細かい。
(公式HPは閉館に当たってごっそりリンク先等消えているため、直接飛ぶしか方法はないかもしれません)

これまでの上映作品 | ユジク阿佐ヶ谷

 

もう1つの強みが黒板アートでした。
イラストレーターからアニメーターから漫画家まで、さまざまな芸術家を呼んでは劇場ロビーにある大きな黒板に書いてもらうという企画で、だいたい掲載期間は2週間~1ヶ月(黒板に書いた作品の上映がおわるまで)残していたそうです。
凄いのがこれを欠かさず続けていたという事。
掲載期間は2週間~1ヶ月と書きましたが、この期間が終わったら次の作品をちゃんと掲載しており、黒板がまっさらな期間というのがほとんど無いようにしていたんですね。
まさに映画愛の為せる業。参加した方々にも拍手を送りたくなる素敵な取り組みでした。
なお、こちらも公式HPにまとめられています。

黒板作家 | ユジク阿佐ヶ谷


それでは続いて料金区分はどうだったのでしょうか?
これがなかなか一筋縄ではいかないものだったので簡単に表にまとめてみました。
サービスデーは木曜日です。

 

区分 放送時間 料金
新作

一般

1800円(新作:1700円)(準新作:1600円)(過去作:1500円)

学生 1300円
シニア 1100円
会員 1000円
1日・サービスデー 1100円(過去作:1000円)
特集上映(過去作品) 一般 1300円(1200円)
学生・シニア 1100円(1000円)
会員 1000円(800円)
1日・サービスデー 1000円

 

はい、見ても分かるように非常にごちゃごちゃしていてよく分かりません。
1600円の準新作は、DVDが発売されていないけれど劇場公開から既に3ヶ月近く経っているものを遅れて上映したパターンに当たると思います。
過去作には1500円のパターン、1300円のパターン、1200円のパターンが存在して、法則はよく分かりませんでした。
というか、かなり料金に関してはフィーリングで決めているのではないかと思います。特に特集上映などは。
とはいえ、それは値下げ方向にまちまちだったので良かったと思います。
シネコンが1900円に値上げする中、最大でも1800円を維持し、特集上映を100円でも安く見させてくれるというのは観客としては嬉しい限りでしたからね。

では、上で出てきた会員とは何かというと、入会・年会費1000円で入場料の割引(だいたいの作品が1000円で見れる)という特典に加えて、12回見れば1回無料券がもらえるというものでした。
つまりは1800円の作品を2回、1300円の作品を4回見るなら会員になった方がお得という結構お得なものだったんですね。
料金周りの話は今さら話しても不毛なのでここら辺で終わりにします。

総合的に見た「ユジク阿佐ヶ谷」

ここまでユジク阿佐ヶ谷の大まかな概要について書いてきました。
そのまとめについてここでは書いていきます。(あくまで個人的な観点なのであしからず)

  評価

総合 

★★★☆☆

アクセス(分かりやすさ)

★★★☆☆
環境(広さ) ★★☆☆☆

ラインナップ

★★★★☆
料金 ★★★★☆

 

 だいたいこんな感じです。
アクセスについては、駅から近いという利点がありながらも、地下であることから最初は「本当にここなの?」と躊躇してしまうこともあって3にしました。
環境については広さやスクリーン、音響などを加味しての2に。
ラインナップは特集上映が多く好感触。ただ、新作を公開日に上映するという機会にはあまり恵まれていなかっただけに4。
料金は高すぎず安すぎずですが、先ほども書いたように細かな値段設定や会員になった際の割引も踏まえて4になりました。
というわけで、総合評価は3となります。
3とは言いますが、限りなく4に近い3.5くらいの評価です。
他の劇場でやっている作品だと見に行くことはなくても、特集上映をやっていたら見に行くという、まさにミニシアターらしい映画館であったといえるでしょう。

ユジク阿佐ヶ谷の思い出

 

↓下の2段は2016年頃のチケット、オンラインになってからは一番上の文字だけのチケットに変わりました。
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ここからはユジク阿佐ヶ谷についての個人的な思い出を書き綴っていきます。
私がここに行ったのは4,5回くらい。2016~2020年に行きました。
まず、新宿からのスタートだったのですが、ここから阿佐ヶ谷まではかなり行きやすかったです。
なぜなら中央線で直通でいけるから。しかも12分前後で行けてしまえるのですからお手軽でした。
で、そこからユジク阿佐ヶ谷に向けていくのですが、私はよくその前に昼ごはんに「蕎麦冷麦 嵯峨谷 阿佐ヶ谷店」という十割そばの店に寄っていました。
と思い出に浸っていたらこの店、今年で閉店しているらしくダブルショックでした。
さて、こうして劇場に行きチケットを買うわけですが、2016年頃は当日窓口でチケットを購入して整理番号を入手→全席自由席で早い者勝ちに席を取るという方式を取っていました。
いつ頃かは不明ですが、オンラインチケット購入ができるように。ただ、全席自由席で早い者勝ちという方式は2020年になっても変わっていないようでした。ミニシアター特有の方式ですね。
座席についてですが、私は基本的に一番前の席を取っていました。
というのも、スクリーンが小さめであったこともあって、一番前の方が臨場感が高まるという理由があったからです。
多少、見上げる形になっていましたがそこまで苦も無く見ることができた記憶があります。
あと、劇場が基本的に狭いため唯一足を伸ばせる席であったのも理由の一つでした。


観客の入り具合ですが、平日、土日祝問わず基本的に多かった印象です。(特集上映しか行ったことがなかったからかもしれませんが)
そこで課題となるのがトイレ問題。

ここの劇場は(記憶が正しければ)個室トイレが2つしかなかったです。(共用で)

そのため列もできやすく、時間ギリギリで行くとかなりハラハラさせられることもありました。

それもまた今となってはいい思い出(?)ですね。

 

閉館した経緯について

さて、一応触れておかなくてはならないのがユジク阿佐ヶ谷が閉館した理由や経緯について。
公式上では、「急激な経営環境の変化」を理由に8月に休館。営業再開が叶わぬまま閉館という流れになっていました。
しかし、その裏では労務やハラスメントといった問題を抱えていたといわれています。
その内情がTwitterで公開されたことが今回の閉館につながったとのことです。
実情を知らない一般人なので、あまり勝手な憶測などは書けないため、ここではこの事実のみを書いておきます。
ただ、ひとつ言っておきたいのは従業員の方々の接客は丁寧でしたし、劇場内の黒板アートやチラシの配置などはとても綺麗で映画に対する愛が感じられました。
過去に利用したことがある身としては、今回の閉館は非常に残念なことです。
今後の運営は「アート・アニメーションのちいさな学校劇場」が引き継ぐことになっているそう。
いつの日か、再び劇場としてオープンされる日がくることを影ながら願っています。