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【ネタバレあり・レビュー】フィールド・オブ・ドリームス

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ストーリー

アリゾナの片田舎でレイ・キンセラは妻子と暮らし、農場を営んでいた。
ある日、彼はどこからともなく聞こえてきた声から「畑を潰して野球場を作る」という使命に突き動かされる。
「夢を諦めた父親と違う生き方をしたい」という説得により、妻からも了承を得たレイは野球場を作り上げた。
やがてそこに死んだハズの野球選手シューレスジョー・ジャクソンが現れる。

感想

これほどジャンルを形容するのに困る作品はありません。
スポーツ?ヒューマンドラマ?ファンタジー
なんにしても言えるのはひとつ。素晴らしい作品でした。
その「素晴らしい作品」という結論に至ったのには理由が2つあります。

まず1つ目が、本作が野球への愛に満ちていた事です。
そもそもこの作品、野球をしているシーンはほとんどありません。
上映時間107分中、正味10分もないのではないかと思います。
しかし、プレーをするだけが野球ではないのです。
本作では、過去の野球選手の経歴や思い出を通して野球の在り方を説いていました。
その中心人物となるのが、実在した野球選手シューレスジョー・ジャクソンでした。
作中でも語られますが、彼は1919年に起きた「ブラックソックス事件」により野球界を追放された悲しき過去を持つ選手です。
そんな彼の逸話を作品では盛り込みつつ、純粋に野球好きである様子を描いていました。
そうしたシーンは本当に何気ないのですが、野球界を追放されたという彼の経歴を知るとかなり心に来るものがあります。
仲間を連れてきて野球に没頭する姿は、それだけでも感動モノでした。

本作においてもう一人、印象的な野球選手がムーンライト・グラハムです。
彼も実在していた野球選手であり、メジャーリーグでの出場1試合、打席なしという経歴も現実に沿っています。
そんな彼に1打席の機会を与えるのがまた素敵な話。
晩年期のグラハムを演じるのはバート・ランカスター。この人がまた味のある演技を見せており、シューレス・ジョーに「いいプレーだったぞルーキー」と言われるシーンはなんともグッとくるものがありました。(バート・ランカスターは本作が劇場公開作で出演するのは最後となりました。ちなみにテレビ映画には後3作ほど出演したようです)
ムーンライト・グラハムという選手の存在は、それまでコアなファン(あるいは原作『シューレス・ジョー』の読者)しか知らない選手でしたが、本作を通して一躍有名な人物になりました。
シューレス・ジョー、ムーンライト・グラハム、二人の実在した野球選手に対するリスペクトは、多くの人の記憶に残ったと言えるのでしょう。


素晴らしい作品であった2つ目の理由が、ノスタルジーでした。
本作はアイオワ州の田舎町が舞台となっているのですが、その畑が広がるだだっ広い景色だけでもなんだか懐かしさがこみ上げてきます。
さらに、夕暮れから夜にかけての美しい風景、少年のように野球を楽しむ選手たち、それを眺めるレイやその家族たち。
そうした光景は、自分の記憶にない事であるにも関わらず、なぜか懐かしさを感じさせるんですね。
そして、ラストには親子でキャッチボール。自然と涙が出そうになる光景でした。
それもそのハズで、このキャッチボールに至るまでにレイは長い旅路を歩んでいました。
その出会いや出来事は、彼が抱いてきた父親との確執、それを解消できなかった後悔を思い出すことにつながっています。
レイのキャラクターを通して感情移入してた私としては、ラストのキャッチボールはとても懐かしく、とても感動的でした。
おそらく本作で感じられるノスタルジーはレイが感じている懐かしさそのままなのでしょう。


野球に対する愛とノスタルジーに満ちていた本作。
あらすじだけ聞くと「天からの声を聞いて野球場を作ったら幽霊たちがやってきた」というなんとも馬鹿げたものに思えますが、実際に見てみるとスポーツ(野球)映画の中でも屈指の名作でした。
それは、映像や音楽の美しさ、キャラクターの魅力、それを演じる俳優など、様々な要素が合わさることで、そのトンデモ設定がとても神秘的で尊いもののように感じられたからなのでしょう。
いつかアイオワのトウモロコシ畑を訪れて「ここは天国かい?」と言ってみたいものです。