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【レビュー】人間の運命(ネタバレあり)

戦争によって人生を大きく捻じ曲げられた人は少なくありません。
それは戦時中はもちろんのこと、戦後であってもなお傷跡を遺していることは多くの映画(他の媒体)でも伝えられてきています。
今回レビューする『人間の運命』もそうした戦争による傷跡を描いた作品です。
第二次世界大戦直後、過酷な運命に翻弄された元ソ連兵士の視点で語られる物語となっています。

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ストーリー

第二次世界大戦終結後の最初の春。
ソ連兵の運転士アンドレイは、少年ワーニャを連れて戦後の地を歩いていた。
そこで同士と出会ったアンドレイは、戦時中の自身の身の丈を語り始める。
それは、戦争によってもたらされた過酷な運命に耐えた物語であった。

感想

のちに多くの戦争映画を手掛けるソ連の巨匠セルゲイ・ボンダルチョクの初監督作品ということで期待していた本作。
初監督作品でここまでクオリティの高い作品が作れるものかと感動しました。
内容としては、第二次世界大戦を生き残ったソ連兵士アンドレイの回顧録なわけなのですが、それが痛烈で心に刺さりました。
戦争によってもたらされる過酷な運命、それを耐え忍び生き続けたアンドレイの強さにはある種感動すら覚える程でした。
こうした物語を描くことができるのは、ひとえに戦時中を生きたセルゲイ監督だからこそだったのでしょう。


そんな本作の始まりは、アンドレイとその息子ワーニャが荒廃した地を歩いてくるシーンからでした。
360度を見渡すカメラアングルが、戦争による影響をまざまざと映し出していたのが印象的な始まり方です。
そこからアンドレイの戦争時の回想に入っていくわけなのですが、これがまた壮絶。
家族との別れから戦場での命懸けの任務、捕虜にされてからの凄惨な日々がリアルに描かれていました。
特にストーリーの大半を占めている捕虜にされてからの日々は、映像があることによってより生々しく感じられます。
過酷な労働を強いる環境、そこで動けなくなった者へ待つ理不尽な仕打ち、突然訪れる銃殺刑の恐怖などは、歴史の本などに書かれている犠牲者の数字だけでは伝わらない悲劇を物語っていました。

アンドレイは、こうした悲劇的な運命を乗り越えていくわけなのですが、これがまた過酷。
いつ死んでもおかしくない状況下に置かれた彼の境遇は、回想であっても息を呑む緊張感がありました。
そうした絶望はモノローグでも語られています。
後悔と苦しみが感じられるそのモノローグは、彼がいかに極限状態で生きてきたのかが伝わってくるようでした。

そんなアンドレイは捕虜ということもあって、ほとんどのシーンで喋ることも感情を露にすることもできません。
脱臼を治してくれた医者が銃殺されるのも、崖から突き落とされた仲間の死も、ただただ黙って受け入れるしかないわけです。
しかし、そうした犠牲者の姿を見ているからこそ、彼の心の奥底にあった自由への渇望と愛国心はより劇的で力強いものとなっていました。
自身に迫る銃殺刑を前にまったく怯んだりしない尊厳ある姿や、僅かな隙であっても生き残るチャンスを逃すまいとする姿は、まさに誇り高きソ連兵です。
演じたのが、セルゲイ監督自身であったこともまた感情を込めやすかったのかもしれませんね。

そんな苦境を乗り越え、祖国に帰ってもアンドレイは報われないのが厳しい現実を思わせました。
その不幸を嘆く彼の声は、フィクションだと切り捨てられるわけもなく……
実際に戦争によって同等……あるいはそれ以上の凄惨な現実と向き合わなくてはならなかった人たちがいるということを考えさせられました。

その救いとなったのが、冒頭に登場していたワーニャだと明かされ驚きでした。すっかり彼自身の孫か親戚だとばかり……
とはいえ、彼が幸せでありワーニャもまた幸せそうなのですからハッピーエンドなのでしょう。
家族を失い絶望したアンドレイが新たな家族と出会い希望を抱くというのは、戦争映画ながらも人の本質を描いているようで感動的でした。

最後に作品全体の話ですが、本作は制作された時代(1959年)もあって映像はモノクロです。
しかし、これがまた戦争の悲惨さを表現するいい演出になっているんですね。
カラーでは感じられない無機質さが作品をより重厚なものにしていたと思います。


人間の運命とそれに耐え忍んだ一人のソ連兵の姿を描いていた本作。
そこから見えるソ連の戦時中の状況や愛国心は、義務教育では知り得ない人の息づかいを感じさせました。
戦時中を知るセルゲイ・ボンダルチョク監督だからこそ描ける名作でした。