【レビュー】ひまわり(ネタバレあり)
ひまわりといったら夏を彩る美しいものです。
それが一面に咲き乱れればまさな絶景。そこに、ネガティブな要素は無いように思われます。
けれど、見る人によってはその美しさが残酷にさえ思えてしまいます。
そんなひまわりの美しさと残酷さを感じさせるのが、今回レビューする『ひまわり』です。
ストーリー
第二次世界大戦下のイタリア。アフリカ戦線へ向かうことが決まっているアントニオと、ナポリ出身のジョバンナは、恋に落ちる。
12日間の休暇をもらうために結婚をした二人は、お互いに愛し合いながら時を過ごした。
12日後、戦場へ行くのを嫌ったアントニオはジョバンナと共謀し、精神疾患を装う。
しかし、それがバレたことから彼はソ連戦線へと送られてしまった。
終戦後、アントニオを待つジョバンナであったが駅に彼は現れなかった。
彼の死を受け入れられない彼女は、単身ソ連へと赴く。
感想
美しいひまわり畑と美しい音楽のオープニングから始まる本作。掴みからして名作の手応えを覚えました。
その手応えは勘違いなどではなく、テーマとしてもその演出としても素晴らしい作品でした。
まず、本作のテーマはあらすじにも書いているように、戦争によって引き裂かれた二人の男女の愛でした。
第二次世界大戦下、行方不明になったアントニオをジョバンナが探すストーリーは分かりやすいです。
探せども探せども見つからず、次々に残酷な真実を突きつけられていくジョバンナ。
それでも気丈に振る舞い、涙のひとつも見せない強い姿には圧倒されます。
いくら愛する人のためとはいえ、戦場にいた人間から「死んだ」と言われているにも関わらず、ソ連へ単身赴くなんて普通の人にはできませんよ。そうした一途な愛がただただ美しいと思いました。
ただ、その美しさに相反するように、ソ連の広大さが残酷にもジョバンナを苦しめていたのが印象的です。
街やサッカー場など人だらけの国の中で、人ひとりを見つける無謀さをひしひしと感じさせていました。
そんな中で、偶然にもアントニオの存在に辿り着くのですから奇跡もあるものです。
しかし、残酷かな。彼は戦時中に負傷したことから記憶を一時的に失い、助けてもらった女性と結婚、子供まで作っていました。
そこに至るまでジョバンナの頑張りを描いていただけに、この事実はなかなかにショッキング。彼女へ魅力を感じて感情移入し始めた頃にこうした動きをみせてくるのですからズルいですよ。
さらに残酷なのが、アントニオは記憶を取り戻していてジョバンナを認識していること。
そのため、ジョバンナがアントニオを諦めて新たな人生を歩もうとしているのに、再び会いたいと言われるんですね。
これがただの浮気であれば一蹴なんてこともあり得るのでしょうが、あくまでアントニオは戦争の被害によって記憶を失っていたことから結婚をしていました。
なので一概に「アントニオなんて忘れてしまえ」とならないのが、上手く作られているなと感じる所でした。
そんな二人の結末は、お互いに別れるという選択でした。
お互いに年を取っていて、家族あるいは恋人がいるのなら当然の選択だと言えるのかもしれません。
とはいえ、かつては愛し合っていた二人が互いの愛を感じながらも身を引くというのは切なさを感じずにはいられませんでした。
ラストシーンのアントニオの乗った列車を見送るジョバンナの姿を捉えたカットは、映像と音楽の両方ともが素晴らしく、儚くも感動的なシーンとなっていました。
こうした、報われない二人のラブロマンスが美しい作品ではありましたが、ただ単にそれだけであればおそらく現代まで語り継がれる名作にはなり得ていなかったでしょう。
ではなにが本作を名作たらしめているかというと、それが戦争要素だと思います。
本作はジョバンナが主人公という事もあってか、戦争描写はほとんどありません。
僅かにある描写も帰還兵が回想シーンで振り返る撤退の様子のみでした。
爆発の一つも、銃の一発も描写されないというのは戦争映画と呼んでいいのか微妙なラインですらあります。
しかし、本作でのアントニオとジョバンナの関係を見ると、確実に戦争映画であると言い切れるんですね。
その理由は、ひとえに二人が戦争の影響を受けていたため。
もしも戦争が起こらなければ二人は離ればなれとなることはありませんでしたし、アントニオが記憶を失うこともありませんでした。
そうした意味では、戦場に赴いていないジョバンナもまた戦争の犠牲者と言えるでしょう。
それは本作で印象的なひまわり畑にも同じことが言えます。
あのシーン、ジョバンナが地元の人から話を聞いたように、ひまわりの下には名もなき戦争の犠牲者たちが埋まっています。
けれど、それを聞かなければそこはただただ美しいひまわり畑でしかありません。
そうした、見えない所に存在する戦争の犠牲者を感じさせるのがひまわり畑のシーンでした。
ひまわりは「自由と正義」の象徴と言われています。
けれど、その下にはアントニオとジョバンナのような目に見えない犠牲者の上に成り立っているのだと言えるでしょう。
二人の男女のラブロマンスを戦争の影響を交えつつ描いていた本作。
その美しくも儚い物語を映像や音楽からも感じさせる美的センスは素晴らしいものでした。
50年経った今なお語り継がれるのも納得の名作でした。