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【レビュー】デンジャー・クロース 極限着弾(ネタバレあり)

ベトナム戦争と聞くとアメリカvsベトナムの戦争というイメージが強いです。

しかし、大規模な戦争であるだけに多くの国を巻き込んだものであったことは言うまでもありません。

今回レビューする『デンジャー・クロース 極限着弾』は、その多くの国の内のひとつ、オーストラリア軍によるベトナム戦争での戦いを描いた作品です。


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ストーリー

1966年8月18日木曜日。

オーストラリア軍D中隊11小隊は、南ベトナムの農園地帯・ロングタンにてベトナム兵と交戦する。

初めは優勢かに思えたが、数で押してくるベトナム兵を前に彼らはその場から動けなくなってしまう。

味方による爆撃により、連絡が取れなくなった11小隊を救うべく、ハリー・スミス小佐率いる12小隊は戦場へ足を踏み入れる。

 

【感想】勇ましきオーストラリア軍の死闘

戦争映画といえば、いつの時代の戦争なのか、どこの国同士が戦うのか、といった情報は大切です。

しかし、なぜかそうした前知識なしで見ることとなってしまった本作。(不注意)

けれど、すごく見やすく分かりやすかった!

そうした感想を抱けるのはおそらく冒頭の説明文のおかげです。

その説明文では、本作がベトナム戦争真っ只中の1966年であること、アメリカ側につくオーストラリア軍の視点であること、そしてその兵士は徴兵された平均20歳の若者ばかりであることが説明されていました。

その分かりやすさと、平均20歳の兵士たちの戦いというインパクトは、初っぱなから一気に作品へ引き込んできました。

あらすじを知らない無知な私を開始3分も満たずにウェルカムしてくれた懐の大きさには感謝です。

 

で、本編が始まれば確かにどの兵士も基本若い!平均20歳という話が現実味を帯びています。

年長者といえば小佐や中佐、准将といったお偉いさんばかり。

少尉、大尉でさえも若い印象を持たせるのは、それだけでもなかなかに衝撃でした。

 

そんな若きオーストラリア兵たちをさまざまな視点から追っていたのが記憶に残っています。

視点としては大きく分けて4つ、D中隊の10小隊、11小隊、12小隊、それに本部でした。

まず、D中隊11小隊。

あらすじにも書いたように、彼らを助けることが本作のメインストーリーになるわけなのですが、同時にそれは最前線でもあるという事です。

いきなり襲撃されて撃たれまくる絶望、引いては寄せるベトナム兵の荒波の恐ろしさは、まさに戦争。

当時の彼らの恐怖をそのまま体感させられるのが彼らの視点でした。

次にD中隊10小隊。

彼らは言ってしまえば11小隊の絶望的な状況をリポートする視点のような気がします。

「10小隊!助けに行け!」→「了解!」→「11小隊ヤバいことになってます!」

で、そのまま交戦状態に入って撤退までいましたから。

まあ、11小隊が逃げられないことをいい感じに表していました。

そして本部。

ここでは、中佐と准将のやり取りがメインになるわけですが、「部下を切り捨ててより多くの部下を救うか」をメインに描いています。

中佐はD中隊たちを救いたいけれど、准将の命令で切り捨てる命令を下さなければならない縦社会の厳しさを見せていました。

最後は「私も戦場へ行く!」と積極性を見せる中佐でしたが、タイミングが悪くてお荷物扱いされるという悲しさ……

 

最後にD中隊12小隊。

スミス少佐とラージ二等兵が所属するいわゆる主人公視点。

上からの命令に非情な決断を下すスミスに「仲間を見捨てるのか!」と突っかかるラージの熱いやり取りが印象的です。

とはいえ、この二人は最終的に打ち解けます。

家族の話をしたり、ラージに婚約者がいることを知ってスミスが「結婚式に招待してくれよ」と言ったりと、別の意味で熱いやり取りが見られました。

ただ、その最期は切ない……

彼らを通して「これが戦争か」と思い知らされましたね。

こうした4つの視点に加えて、砲撃隊やヘリ部隊といった視点も取り入れられており、当時の「ロングタンの戦い」を最前線で目の当たりにした感覚に陥りました。

初めこそ、視点の切り替えに「誰が誰だか分からん」となりましたが、最終的にはなんとなく主要人物を抑えられたので良かったです。

 

こうして戦争の残酷さを描いた作品でしたが、戦争自体の描写は以外にライト。

撃たれれば当然血が出るのですがドバドバは出ずに、それこそ着弾時の血飛沫程度しかありません。

また、砲弾を近くで食らっても四肢が欠損するようなこともなく、戦争映画にしては落ち着いた印象を受けました。

それこそ冒頭の説明文と同じように、多くの人が見やすいように配慮した結果なのでしょうが、戦争の生々しさという点では少し物足りなさもあったように思えました。

このように、なんだか全体的に小ぎれいにまとまっていたのが、個人的には残念。

なんだかジャングル内のシーンは「セットで撮影してます」感が出ていたり、各兵士の汚れにメイクっぽさを感じたりと、作り物感が強かった気がします。

同じベトナム戦争をテーマにした『地獄の黙示録』なんかは、ジャングルの禍々しさや現地の熱気など、リアルさが巧く表現されていました。(余談ですが、この二作の予算は『デンジャー・クロース 極限着弾』3500万ドル、『地獄の黙示録』3150万ドルと、似たり寄ったりです)

まあ、声を大にして「悪い!」というようなことでもありませんし、それを補って余りあるほど面白かったのは事実ですけどね。

 

その、補って余りある要素の代表格が砲撃シーンです。

あらゆるシーンでベトナム兵を追い払い窮地を救う砲撃は、本作の目玉と言っても過言ではありません。

上半身裸のマッチョたちが、指定された箇所に的確に砲弾を発射する様子はそれだけでもテンションが上がりました。

発射シーンから着弾までの弾の軌道を追った演出が挟まれていたりと、砲撃に対するこだわりが見えたのも、楽しめる所でした。

また、砲撃とは別になりますがアメリカ空軍による絨毯爆撃のシーンは迫力が凄まじい!

特に助けになっていませんでしたが、ロマンがあったからよしとしましょう。

 

で、本作のタイトルでもある「デンジャー・クロース=極限着弾」は、この砲撃シーン由来でした。

本作では「味方の目と鼻の先に着弾させろ」という、超危険な行為のことを指していました。

これを12小隊たちからの要請で実際にやるのですが、その結果「近すぎて危ない!止めてくれ!」と即座に止められるんですね。

「そりゃそうだ」と思いながらも「タイトルになるくらいだしどこかでまたやるんだろう」と思っていたらその一回っきりでした。

結論、デンジャー・クロースなんてやるもんじゃないというメッセージにも思えてなんだかモヤモヤする扱いではありました。

 

ベトナム戦争における実際にあったオーストラリア軍の死闘を描いていた本作。

ラストシーンでは「オーストラリア、ベトナムのどちらもが勝利を宣言している」と、ありました。

私個人としては、2000人のベトナム兵を108人で相手どり、死者18人、負傷者24人に抑えたオーストラリア軍こそが勝者だと思います。

それは本作でのスミス少佐やラージ二等兵の仲間への思いを見ていれば、おそらく多くの人が感じることでしょう。