【レビュー】エレファント・マン(ネタバレあり)
デヴィッド・リンチといえば、映画界でもカルト的な人気を誇る監督です。
そんな彼のデビュー作が1976年に公開された『イレイザーヘッド』でした。
そんな彼の2作目となったのが、今回レビューする『エレファント・マン』です。
アカデミー賞で8部門にノミネートされ、デヴィッド・リンチの出世作となった伝説的な作品。
今回、それが4k修復されたものが公開されました。
ストーリー
外科医であるトリーヴスは、ある日、見世物小屋で「エレファント・マン」というものを見つける。しかし、それはあまりの醜さゆえに警察からも見世物として止められているほどであった。
興味を持ったトリーヴスは、興行師バイツにお金を払い、エレファント・マンと接触を試みた。
彼が21歳の青年ジョン・メリックであることを知ったトリーヴスは、少しずつ彼が人間であることを認識していく。
感想
デヴィッド・リンチ監督の作品は以前「デヴィッド・リンチの映画」なる企画で10作中6作を見ていました。で、その感想はざっくりと「やべー作品ばっかり」というものでした。
カルト的な人気があるというので、こんなものなのかと思いながら見ていました。
ただ、1作品普通に見れる作品があり、それが今回の『エレファント・マン』であったわけです。
そんなわけで、他のリンチ作品と比べると見易い……というかストーリーや演出が一般向けである本作。
そのため、2回目であっても普通に楽しむことができました。
エレファント・マンことメリックと出会ったトリーヴスの打算的な考えが、彼の置かれた境遇や人間性を見ることでだんだんと改められていく流れは、感動的ながらも学ぶものも多い内容でした。
そんな本作ですが、一番ポイントとなっているのは悪党なのだと思います。
その悪党とは、興行師バイツと夜景のジムでした。
まずバイツは、メリックに対してエレファント・マンとして生きる道を強いており、少しでも意にそぐわない行動をしようものならムチ打ちという極悪非道な行為をしていました。
それでいて、世間体はよくしようと金持ちに媚びへつらうのですから見ていて気分の悪くなる悪党であったと言えます。
もう一人の悪党ジムも負けず劣らずの卑劣漢。
自らの私利私欲を満たすためメリックを見世物として扱う行為は、見ていても胸くそ悪くなる思いでした。
しかも、周りを盛り上げるためにメリックに鏡を見せたり、無理矢理キスをさせたりしようとするのですから嫌なやつと言うしかありません。
とはいえ、この2人の悪党がいることで作品が面白くなっていたのは事実。
単純に感情を揺さぶり展開を盛り上げるという効果があることはもちろんのこと、トリーヴスの抱く「自分のやっている行為は私利私欲のためではないのか?」という疑問に対する答えにもなっていました。
この2人の悪党がいることによって、トリーヴスが確実に善人であることが明確になっていたんですね。
「彼の行動が偽善や同情からではないか」という疑問も残りはしましたが、少なくともメリック自身が感謝の意をこれでもかと押し出していましたし、なによりベッドの中での死という幸せな最期を遂げていたので作中の表現通り受け取って良いのだと思います。
そんな悪党2人による効果は、メリック自身にも影響を与えていました。
メリックは、エレファント・マンと呼ばれるほど(名付けたのはバイツですが)醜い容姿をしていました。
けれど、その心は純粋無垢で話をすればユーモアもある素敵な人物でした。
初めは直感的に「不気味だ」と思っていても、彼を知っていくうちに好感が持てるようになっていくのですから不思議なものです。
それに反して心が醜いのが悪党2人。これによりメリックに対する好感がより高まるようになっていました。
作中、トリーヴスがジムに対して「お前こそが本物の化け物だ」と言い放つシーンがありましたが、よく言ったと同調したくなるくらい的確な表現でした。
なんにしても、悪党2人がいることによってストーリーの深みが増し、作品への没入感を高めていたことは間違いありません。
そうした意味では味のある必要不可欠な悪党であったと言えるのでしょう。
デヴィッド・リンチの名を世に知らしめた代表作のひとつであった本作。
その独特な感性を見せつつも大衆受けしやすい内容にまとめていたのは、4K修復するに値する名作であったと思います。
ちなみにこの作品は久々に見たため、どれくらい綺麗に修復されているのかを明確に感じ取ることはできませんでした。
強いて言うなら、白黒かつ暗いシーンが多い作品のため、細かい所まで見えやすくなったような気がしたくらいですね。(以前はなんだか見え辛い印象を受けました。特にトリーヴスが初めてメリックを見るシーンとか)
まあ、違和感なく見れたという事は綺麗になったという認識でよいのかもしれません。
少なくとも、見世物小屋という悪趣味な文化の残る時代へと引き込んでいくかのような見せ方は、映画館で見ることによってより面白さを増す作品でした。