【レビュー】リバー・ランズ・スルー・イット(ネタバレあり)
ブラッド・ピットというと、おそらく映画をあまり見ない層でも知っている俳優でしょう。
今となっては、彼が出れば主人公。そんなイメージすらついています。
今回レビューする『リバー・ランズ・スルー・イット』は、そんなブラピがキャリアを高く向上させた、ターニングポイント的一作となっています。
また、名優でもあるロバート・レッドフォードが監督を務めた作品でもあることから、映画を語る上では書かすことの出来ない作品のひとつでしょう。
そんな映画として秀でた作品ではありますが、内容は非常に牧歌的です。
マクリーン家の長男であるノーマンが、父親と話し、兄弟同士でバカをやり、地元の女性に恋をして、釣りをする……ただそれだけ。
とはいえ、その描き方が素晴らしいです。
神父のため厳格で融通の効かない父との距離感、弟ポールへコンプレックスを持ちながらも愛を感じるジレンマ、ジェシーとの恋の駆け引き。
人とのつながりにフォーカスした、暖かな見せ方は最後まで魅力的でした。
こうした中でも、ひときわ素敵な雰囲気を醸し出していたのが釣りシーンです。
ノーマンとポールにとっては、教会に行くに等しい神聖な行為という表現がまずユニーク。
その表現に説得力を持たせるかのように映し出される雄大な自然、川のせせらぎや釣り糸が風を切る音などはただただ美しかったです。
その釣果がノーマンとポールの密かな競争心を煽っていたのも印象的でした。
神聖な場所というだけあって、他人には汚すことの許されない領域となっていたように思えました。
そんな二人の父親は、フライング・フィッシング全体を芸術と称していました。
そのため、ポールの死を聞いた後には、巨大魚を釣ったポールの姿を「完成された美」と表現しただけでした。
おそらくこれは、父親にとってポールの美しい姿が記憶に最も強く残っていたことによる発言なのでしょう。
例えどれだけ惨めな生き方であったにしても、ポールの釣りの腕は芸術品であったことに変わりはなかったというわけですね。
これらの物語は、主人公であるノーマン(クレイグ・シェイファー)の視点で語られています。
しかし、不思議とポール(ブラッド・ピット)の存在が記憶に強く残っているのが事実です。
確かに「ブラッド・ピットが演じているから」というのが大きな要因なのかもしれませんが、それを抜きにしても記憶に残りました。
それもそのハズで、本作はノーマンがポールに抱くコンプレックスと兄弟愛に揺れ動く様子がかなり丁寧に描かれていました。
そのため、ポールにフォーカスしたシーンが多いのですね。
そこへ、ブラッド・ピットが表現力豊かにユーモラスな性格のポールを演じるのですから嫌でも記憶に残ります。
ブラッド・ピットがポールへ生命を吹き込み、それをノーマンの視点から見つめる……
記憶に残らない方がおかしいくらいの存在感を発揮していたと言えるのでしょう。
釣りが大きな役割を果たしていた本作。
直接的な影響こそないものの、絆や関係を僅かに変化させていました。
そうした、微妙な変化を繊細な表現で描いた素敵な作品でした。