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【レビュー】運命の女(ネタバレあり)

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恋愛には「運命の出会い」というものがあります。
目と目があってお互いに愛を感じる……まさにロマンチックです。
しかし、世界の人口は60億人。その運命の出会いが必ずしも一人とは限りません。
そんな2度目の「運命の出会い」によって人生を狂わせていく1組の夫婦と1人の男の物語が今回レビューする『運命の女』です。

メロドラマ性が強く、昼ドラを2時間に収めたかのような作品なわけですが、個人的にはとても面白かったです。
2時間という枠に収めるために無駄が削ぎ落とされたテンポの良さの中、妻コニーと愛人ポールが愛欲へ溺れていく様、夫エドが真相へ近づいていく様が描かれていくのは、ハラハラドキドキしながら見ることができました。

そんな本作ですが、冒頭から作品へ惹かれる印象的な展開から始まっていました。
風が強い日、何気ない偶然がきっかけでコニーとポールが運命の出会いを果たしてしまうんですね。
まさに、人との出会いは一期一会。今回は一期一会で終わらないわけですが、この冒頭は人と人との出会いは奇跡的なのだなと感じさせる魅力的な描き方がされていました。
そして、お礼と称してあったりしている内に二人は禁断の恋仲に……
このシーンでの、コニーを演じたダイアン・レインの「私には夫がいるからダメなのに……!」感が本当に色っぽかったです。
後半戦のシリアスパート含め、演技の高さを評価されているのも納得の演技力でした。

本作で面白いのがコニーの惹かれるポールの存在です。
実はこの作品には原作があって、1968年のフランス映画『不貞の女』がリメイク元となっています。
ストーリーはもちろんの事、殺害シーンなんかも瓜二つで「すごく丁寧なリメイク」という印象を受けました。(なお『不貞の女』は、DVDにプレミア値がついています)
そんな中でも、違いがあったのがポールの存在でした。
リメイク元では当然、フランス人三人による三角関係が築き上げられています。
対して本作では、ダイアン・レインアメリカ人)、リチャード・ギアアメリカ人)の中に、フランス人のオリヴィエ・マルティネスが混ざっているんですね。
リメイク元へのリスペクトと考えればそれまでなのですが、個人的にはこの国の違いもまた火に油を注いでいたのではないかと思います。
理由は至極明快、アメリカ人から見てもフランス人はセクシーだからです。
イケメンアメリカ人の夫(エド)とは異なる、フランス人イケメンを前にフランス語で愛をささやかれたりすれば、心が揺らいでしまうのも必然でしょう。
ましてやそこに「運命」であったり「禁断の愛」なんてガソリンが注がれれば爆発するのも当然こと。
二人の関係はなるべくしてなったというのが個人的な思いですね。

ただ、そんな「フランス男がセクシーだったから」なんて言い訳で夫が納得できるハズもなく……後半からはポールを殺したエドによるサスペンスドラマが展開されていました。
面白いのがコニーも浮気という爆弾を抱えていることでした。
ポールの殺害について警察が聞き込みを行いに来た際に、浮気がバレそうなコニーが適当な言い訳を言う一方で、殺人がバレそうなエドもそれに合わせるという証言の適当さ。
お互いに「やっべー」ってなっている中、エドだけは全ての真実を知っているのがまたおかしかったです。
後半からエドの視点になることで、この"全ての真実を知っている"のがエドと私たち鑑賞者だけになるというのが素晴らしい点でした。
こうなると、断然エドを応援せざるを得ませんからね。巧妙な感情移入を誘導させられた思いでした。

そんな秘密を抱えたエドと私たち鑑賞者をよそに、浮気という罪悪感から解放されたコニーは少し日常を取り戻していたのが印象的です。
「なにちょっと上手くやり過ごせた感出してるんだ」とツッコミたくなるようなメンタルの回復っぷりを見せていました。
しかし、当然しっぺ返しは来るもの。エドがポールを殺害したことに気づき、問い詰めると原因が全て自分にあったことを再認識させられていました。
ここで彼女がポールと出会った日を回想し「もしもタクシーに乗って帰っていたら……」と後悔する演出は、人間味が溢れていてよかったです。

そんな本作のラストは、二人で逃げるよう提案するコニーに対してエドはそれに同意。けれど、二人がいるのは警察署の前という、意味深なものでした。
これ、監督としては「鑑賞した人に解釈は任せますよ」というすたんすだったのですが、結末を知りたい声が大きかったからか別エンディングを制作して、エドが出頭するまでを描きました。
個人的にはそのまま濁しておいてもよかった気もしますが……

ただ、このエンディングが制作されたことで、コニーの今後を考えることは出来ます。
彼女はエドが殺人を行った事実を知ってからも頑なに自首することを否定をしていました。
邪推かも知れませんが、私としてはこれは夫のためでもあると同時に自分のためだったようにも思えるんですね。
というのも、彼女は全ての発端となっており、二人の男の人生を狂わせた張本人でもあります。
けれど、浮気は罪となるわけではありません。むしろ、人殺しするほど彼女を愛していた夫が罪人として裁かれます。その罪悪感は図り知れないものです。
そのため、自身と同じようにエドにもまた裁かれない罪の十字架を背負ってほしいと考えた結果が逃亡の提案だったのではないでしょうか?
あくまで個人的な考えなので、もしかしたらコニーは愛ゆえに逃亡を提案したのかもしれません。
ただ、少なくともエドが出頭することでコニーは裁かれない罪を背負うことは確かだと言えるでしょう。

不貞の女』から『運命の女』へとタイトルを変え、リメイクされた本作。
リメイク元に比べれば、だいぶオブラートに包んでいますが、やっていることは不貞です。(ちなみに原題は『Unfaithful』(不貞)となっています)
とはいえ、ダイアン・レインのような美人が愛欲に溺れ、もがき苦しむ様子を見ると、オブラートに包みたくもなります。
彼女が起用されたことによって作品のクオリティが格段に上がっていたことは事実ですし、彼女こそ『運命の女』と呼ぶのにふさわしいのかもしれませんね。