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【ネタバレあり・レビュー】(500)日のサマー | 愛の始まりと終わりと始まり

運命の出会いというものは果たして存在するのか?それは誰にも分かりません。
偶然を運命と信じれば運命になりますし、偶然をそのまま偶然と捉えればそれは偶然でしかありません。
今回レビューする『(500)日のサマー』は、運命を信じた男の人生が変わるラブロマンスを描いた作品です。

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ストーリー

ロサンゼルス。
メッセージカードを製作する会社に務めるトムは、ある日、秘書として雇用されたサマーと出会い恋に落ちる。
高嶺の花であるサマーに挫けかけるトムであったが、偶然にも歌の趣味があい、それがきっかけとなり、二人の距離は縮まっていく。
恋人同然の関係まで発展した二人であったが、サマーは恋人を作らないことを宣言しており、トムは自身らの関係に疑問を抱き始める。

感想

マーク・ウェブ監督が『アメイジングスパイダーマン』のメガホンを取ると聞いてからずっと気にしていたのに見る機会がなかった作品です。
で、「マーク・ウェブ最高傑作」という呼び声も高い作品だけあって面白い。単純にストーリーもですが、映画としても面白くて驚きました。

その大きな魅力となっているのがタイトルにもある「(500)日」。
この作品では、トムとサマーが出会ってから別れるまでの500日をピックアップする形で描写しています。
「〇〇日目」という形で、日付を表示するシステムは、ありそうでなかった秀逸な表現でした。
さらに、面白いのが500日間を順不同で描写していたことです。
例えば、映画冒頭はトムとサマーが別れた状況(出会いから200日以上が経過)から始まっていました。
で、こうした表現がどういった効果をもたらすかというと、単純に興味を惹かれるんですよね。
冒頭いきなり別れた状況から入ることで「一体何があったんだ?」と興味を抱きます。
そこで1日目に立ち返って出会いを見せるというのは痒いところに徐々に手が届いていくような感覚すらありました。こうした、出会い→恋人へ発展していくパートと、恋人→別れへと発展していくパートを交互に見せるというのは非常に面白かったです。
また、「出会い→恋人」パートで、トムがウキウキ気分でエレベータに乗った直後に「恋人→別れ」パートに移動して落ち込んだトムがエレベータから降りてくる、といったユーモラスな表現もあったのには感心しました。
常に観客を飽きさせない刺激を与えてくれるというのは、大きな強みであったと思います。
他にも、画面を二分割することで2人の状況をシームレスに表現していたり、トムの理想と現実を同時進行させたりと、色々斬新な表現があったのも面白かったですね。


そんな演出が光る本作ですが、脚本としても面白さがありました。
しかし、本作は冒頭のナレーションにもあるようにラブストーリーではありません。
甘々な展開はいくらかあるものの、その最後はハッピーエンドとは程遠い結末でした。
そんな500日の二人の恋愛模様を見ての率直な感想は「サマー酷いやつだな」というものです。
おそらくこの感想を抱くのは私だけではないハズ。なぜなら、サマーはトムとの恋人関係は拒むのに、その後平然と他の男と婚約しているのですからね。
しかも、婚約の事実を知ったトムはショックのあまり自暴自棄になって仕事まで辞めてしまうのですからなかなか酷い話。
それを知ったサマーは、トムが夢であった建築関係に挑むようになったのだと勘違いしたのか「辞めて良かった」と告げるのですから釈然としません。
で、これらのサマーの行動は意図的に描いていたのだと思います。
というのも、本作は冒頭で原作者のメモが紹介され、そこでジェニー・ベックマン(原作者兼脚本のスコット・ノイスタッターが付き合っていた実在する女性らしい)に対する悪態(「Bitch」(くそ女))をついているんですね。
つまりは、これは復讐にも近い物語。故にナレーションが言う「ラブストーリーではない」という事なのでしょう。
では、サマーが根っからのくそ女かというと、一概にそうとも言えません。
なぜなら、彼女は意図的にトムの純情を弄んだわけではなく、500日を通して(実質付き合っていたのは200日前後ですが)彼とは合わないことに気づいただけにすぎないからです。

そもそもトムの恋愛観は作中でも語られていたように「運命」を信じるものでした。
そのため、サマーとの出会いにも運命を感じ、「彼女しかいない!」と思い込んでいました。
一方、サマーはそんなことは特に思っておらず、出会いも偶然によるものとしか捉えていません。
で、500日後。見事に二人の恋愛観は入れ替わってしまいます。
サマーは運命の出会い(を信じて)結婚。トムは偶然にも新たな出会いを果たします。(サマーの次の出会いがオータムというユーモアは面白かったです)
このように、二人は相性がいいようでありながら、一番大切な恋愛観が噛み合っていないんですね。(トムが恋愛観を培うことになった映画「卒業」で、サマーが泣いているというのも噛み合っていないことを表していたのだと思います)
そんなことですから、自然消滅的に疎遠になったというのも必然であったのでしょうね。
本作はトム(というか、原作者)の主観で語られていくため、恋愛観の合わない相手を「くそ女」と思えるのは仕方ありません。(作品もそう見えるように作られていますし)
とはいえ、真実は恋愛観なんて十人十色。それこそ、育ってきた環境や見たもの、聞いたものによって変わってくるのだなと思いました。
なので本作はラブストーリーというよりは、ヒューマンドラマだったのかもしれませんね。


マーク・ウェブ監督の長編初監督作にして出世作であった本作。
ユーモラスでありながらも、登場人物の恋愛観を感じさせるストーリー展開は、ブレイクしたのも納得の出来映えでした。
こうして培ったラブロマンスのノウハウが『アメイジングスパイダーマン』シリーズにも応用されていくわけですね。