【レビュー】ニュー・シネマ・パラダイス(ネタバレあり)
「あの頃は良かった……」
人には誰しもそんな風に思ってしまうことはあるものです。
そんな時に見たい映画が今回レビューする『ニュー・シネマ・パラダイス』となります。
ノスタルジーに浸れると同時に未来に目を向けさせてくれる、まごうことなき名作です。
この作品を名作たるしめている理由、それは映画館の魅力と友情の美しさをノスタルジックに描いていることにあると思います。
例えば映画館なら、マナーのない無法地帯感がノスタルジックでした。
おしゃべりする客、寝るおっさん、笑う子供たち、薄汚れた館内など、とにかくみんながやりたいことを自由にやる空間は、昔の映画館のイメージを連想させました。
確かに静かに映画を噛み締めるのもいいものですが、みんなでワイワイガヤガヤしながら見るのは純粋に映画を楽しめている感じがありました。
映画を見るのに正解なんてなくて、楽しんだもの勝ちということをひしひしと感じさせてくれると同時に、自分もまた喧騒の中にいるかのような体験ができました。
その楽しさを届けるトトとアルフレードの関係もまたノスタルジーに浸らせてくれるものでした。
「映画で幸せを届けたい」という思いでつながり、時には友人のように、時には師弟のように、時には親子のように、まっすぐに向き合う二人の関係は、大人になるにつれて忘れてしまいがちな人の暖かさを思い出させてくれるかのようでした。
トトが素直な子供で、アルフレードが子供のような純粋さを持っているからこそ成立する関係は見ていてもどこか懐かしさを感じさていました。
舞台がシチリア島のとある村の小さな映画館というのも絶妙な哀愁を漂わせていました。
先程も書いた映画館の賑わいは、その小さな村でみんなが顔見知りだからこそ生み出せる雰囲気だったと思います。
こうした、ありとあらゆる面において「懐かしい」を感じさせる本作ですが、伝えてくるメッセージはむしろその逆でした。
「ノスタルジーに惑わされるな」
アルフレードがそう言ったように、本作はノスタルジーに浸ることをネガティブなことだと定義しているんですね。
確かに過去を振り返ってそれに浸っても、ナーバスになるだけですし何も戻ってきません。
そんな思いに囚われ続けることを考えるとアルフレードの言うことは正しいと言えるでしょう。
それは大人になったトトが帰郷した際に、過去を振り返り、浸っていた描写からもひしひしと感じられました。
人が前に進むためにはノスタルジーに浸っていてはダメだと嫌でも思い知らされます。
とはいえ、本作はノスタルジーの全部が全部悪いこととして描かれていたかと言えばそうではありません。
例えば、ラストでトトがアルフレードからのフィルムを見て笑顔を見せたように、過去を振り返ることで、愛を知ることは出来ると思います。
要は、過去を振り返りどう受け止めるかが問題なのでしょう。
ただ「あの頃は良かったなぁ……」となるだけでなく「あの頃は良かったなぁ……よし!あの頃のようにがむしゃらに頑張ろう!」となるのならノスタルジーもまた悪くはないのではないでしょうか?
少なくともノスタルジーに満ち満ちている本作を見て「ノスタルジーに浸っていてはダメ」という言葉では片付けたくありません。
これだけのいい作品なのですから、もっとこういい意味があるのだと思いたいですよね。
誰しもがきっと一度は感じたことがあるであろうノスタルジー。
それゆえに、本作はきっと多くの人の胸に刺さり、名作と呼ばれるようになったのでしょう。
明日前を向くために、本作を見たその日だけノスタルジーに浸るのなら、それは案外悪いことではないのかもしれませんね。