スキマ時間 DE 映画レビュー

【レビュー】別離(1939)(ネタバレあり)

人は結婚をすることで、生涯を添い遂げる相手を決めます。

けれど、そんな運命の相手が実は他に存在していたら……?

そうした不倫物語は珍しくはありません。

そんな不倫物語をモノクロで描くのが、今回レビューする『別離』です。


f:id:sparetime-moviereview:20200704010519j:image

 

本作を語る上で声を大にして言いたいのが「不倫物語であっても美しい作品である」ということです。

物語はシンプルで、世界的に活躍するバイオリニスト、ホルガーが娘のピアノ教師アニタと愛し合うようになるというものでした。

 

では、なにが美しかったのかと言うと、二人の共通の仕事である音楽でした。

本作は上映時間が70分と非常に短い作品なのですが、二人がデュエットをするシーンはカットすることなく描写しています。

言葉もなく、相手の音を聴き、目を交わし合う二人だけの時間……

そんなうっとりするような美しい空間は、ただただ見惚れ、聞き惚れるばかりでした。

 

そんな美しさを壊さないためか、キス以上のシーンがなかったことが印象的。

本来、不倫ともなれば隠れて夜の営みをするような生々しいイメージがありますが、そういった描写は一切ないんですね。(キスシーンも不倫でよく見る貪るような感じではありません)

 

しかし、愛情表現が薄いかといったらそうではありません。むしろ、濃いくらいです。

特に二人が距離を縮めるきっかけとなる、コンサート後の夜の町を歩くシーンは素敵でした。

冬から春へと変わる季節を愛になぞらえた詩的なやり取りは、まさに純愛。

不倫であることなど忘れさせるような美しさを感じました。

 

このように、本作はセリフ回しが素晴らしいです。

中でも印象的だったのが、愛と生涯についてのセリフでした。

ホルガーの妻マーギットが、冒険心を忘れられないホルガーを諭すために言った「昔のような幸せは一生に一度だけよ」というセリフ。

これが、アニタの「一生にたった一度だけの幸せね」というセリフによって思い起こされる流れは秀逸でした。

また、とある石碑に"命尽きても我が愛は永遠に続く"と書いてあるのを見て、ホルガーがアニタに「自分たちのことだ」と、自分にも言い聞かせるように呟くのも印象的です。

愛と生涯を並べることによって、美しいだけでは許されない責任の重さを感じさせました。

 

そうした責任の重さを描くエピソードが幾つかあったのも印象深かったです。

ホルガーの帰りを待つ娘アン・マリーの健気さは心を打ちました。

しかし、彼女は父のコンサートをラジオで聞いていたらマーギットに消されてしまったり、念願の父と再開したのに事故あったりと、あんまりーな扱いばかりです。

とはいえそれが、息子との和解やマーギットとの許しを得る機会にもつながっていたことを考えると、信じて待ったかいはあったと言えるでしょう。

 

夫婦の愛や愛人への愛、親子愛など、あらゆる面における愛の形を描いていた本作。

最も人間に身近で共感できる内容であるからこそ、長く愛されているのかもしれませんね。