【レビュー】別離(1939)(ネタバレあり)
人は結婚をすることで、生涯を添い遂げる相手を決めます。
けれど、そんな運命の相手が実は他に存在していたら……?
そうした不倫物語は珍しくはありません。
そんな不倫物語をモノクロで描くのが、今回レビューする『別離』です。
本作を語る上で声を大にして言いたいのが「不倫物語であっても美しい作品である」ということです。
物語はシンプルで、世界的に活躍するバイオリニスト、ホルガーが娘のピアノ教師アニタと愛し合うようになるというものでした。
では、なにが美しかったのかと言うと、二人の共通の仕事である音楽でした。
本作は上映時間が70分と非常に短い作品なのですが、二人がデュエットをするシーンはカットすることなく描写しています。
言葉もなく、相手の音を聴き、目を交わし合う二人だけの時間……
そんなうっとりするような美しい空間は、ただただ見惚れ、聞き惚れるばかりでした。
そんな美しさを壊さないためか、キス以上のシーンがなかったことが印象的。
本来、不倫ともなれば隠れて夜の営みをするような生々しいイメージがありますが、そういった描写は一切ないんですね。(キスシーンも不倫でよく見る貪るような感じではありません)
しかし、愛情表現が薄いかといったらそうではありません。むしろ、濃いくらいです。
特に二人が距離を縮めるきっかけとなる、コンサート後の夜の町を歩くシーンは素敵でした。
冬から春へと変わる季節を愛になぞらえた詩的なやり取りは、まさに純愛。
不倫であることなど忘れさせるような美しさを感じました。
このように、本作はセリフ回しが素晴らしいです。
中でも印象的だったのが、愛と生涯についてのセリフでした。
ホルガーの妻マーギットが、冒険心を忘れられないホルガーを諭すために言った「昔のような幸せは一生に一度だけよ」というセリフ。
これが、アニタの「一生にたった一度だけの幸せね」というセリフによって思い起こされる流れは秀逸でした。
また、とある石碑に"命尽きても我が愛は永遠に続く"と書いてあるのを見て、ホルガーがアニタに「自分たちのことだ」と、自分にも言い聞かせるように呟くのも印象的です。
愛と生涯を並べることによって、美しいだけでは許されない責任の重さを感じさせました。
そうした責任の重さを描くエピソードが幾つかあったのも印象深かったです。
ホルガーの帰りを待つ娘アン・マリーの健気さは心を打ちました。
しかし、彼女は父のコンサートをラジオで聞いていたらマーギットに消されてしまったり、念願の父と再開したのに事故あったりと、あんまりーな扱いばかりです。
とはいえそれが、息子との和解やマーギットとの許しを得る機会にもつながっていたことを考えると、信じて待ったかいはあったと言えるでしょう。
夫婦の愛や愛人への愛、親子愛など、あらゆる面における愛の形を描いていた本作。
最も人間に身近で共感できる内容であるからこそ、長く愛されているのかもしれませんね。