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【レビュー】ワイルド・ローズ(ネタバレあり)

人が夢をあきらめるべきタイミングなんて決まっていません。 本人が「まだやれる」と思うのであれば、不可能はないと言えるでしょう。 しかし、もし自分以外の人生も掛かっているとしたら……? 今回レビューする『ワイルド・ローズ』では、シングルマザーが歌手を目指す、一風変わった夢追い人の物語です。

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ストーリー

イギリス、グラスゴー。 ドラッグ密輸の疑いで1年の刑を科せられていたシングルマザー、ローズ=リン・ハーランは、その刑期を終え出所した。 彼女の2人の子供を預かっていた母親マリオンは、これからは子供たちのために堅実に生きるよう説得する。 しかしローズは、アメリカ、ナッシュビルで歌手になる夢を諦めきれずにいた。 地元の資産家スザンナの家政婦として働くこととなったローズは、なりゆきで自身の夢を彼女に明かす。 それがきっかけとなり、スザンナはローズの夢の実現のため協力をしてくれるようになる。

感想

映画で夢追い人の物語といえば、やはり最近だと『ラ・ラ・ランド』が思い浮かびますね。 しかし、あちらは独身で自由奔放な二人が夢を一直線に追う姿が印象的でした。 本作のローズは年齢こそ20代後半から30代ではあるものの、2児の子持ち。端から見れば「いい年した母親」です。 マリオンがしっかりするように口酸っぱく言うのも分かる気がします。

しかし、ローズは我が道を行く。 フリンジの付いたジャケットにロングブーツというカウボーイスタイルで、ごり押し気味にクラブで歌ったり、酒を煽ったりする姿はまさに「ワイルド」でした。 とはいえ、ローズの歌唱力は本物で、歌えばバーでは大盛り上がり。たしかに夢を追うのも納得の歌唱力でした。 これ、主演のジェシー・バックリーが実際に歌っているそう。 演技においても2児の母親で夢追い人という苦悩を上手く表現していましたし、今後の活躍が期待できそうです。

そんな夢と現実との苦悩が本作のメインストーリーとなります。 子供たちとの距離が取れなかったり、夢への希望が持てなかったり、自分の犯罪歴に息の詰まる思いをさせられたりするローズの姿はワイルドというよりも、普通のシングルマザー。 それでも手探りで少しずつ子供たちとの関係を詰めていき、持ち前のコミュニケーション能力で夢に近づいていくのですから素直に応援したくもなります。

もちろん、それは一人だけの力だけでは実現できることではありません。 スザンナが夢の実現に向けて色々な提案を出してくれたり、マリオンが子供の世話をしてくれるからです。 中でもマリオンとの関係は色濃く描かれており、ことあるごとに衝突をしていました。 それでも最終的には、夢を叶えられなかった自身と同じような失敗をさせたくなかった、愛情ゆえの行動であったことが分かるのですから感動的です。 ローズと子供たちの親子の物語であると同時に、マリオンとローズの親子の物語でもあるのは素敵な構成でした。

こうして見ると分かるように、本作は現代的な要素を取り入れた作品です。 夢を捨て母親として生きることを選択したマリオンと、シングルマザーながらも子育ても夢の実現も諦めなかったローズ。 その力強さは、現在注目されている女性の権利や生き方について、希望を与えるかのようでした。 もう1つ現代らしさを感じさせるのが、ローズの夢を叶えるための資金集めです。 このためにスザンナが提案したのが、富裕層からクラウドファンディングをしてもらうという方法でした。 結局、その出資は特に実現しませんでしたが、現代的な考え方に興味を引かれましたね。

子育てと夢の実現。それを天秤にかける難しさを(子持ちでなくとも)痛感させられる本作。 マイノリティ(カントリー音楽好き)であっても挫けず、ただまっすぐに夢を追う姿にはあらゆる層が希望と勇気をもらえたことでしょう。