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【ネタバレあり・レビュー】昼下がりの決斗 | サム・ペキンパーが描く誇り高き自尊心を失わない男の姿!

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ストーリー

カリフォルニア。
元保安官のスティーヴは、銀行から金鉱で取れた金を運搬する仕事を依頼される。
彼はその旅路に偶然再開した旧友ギルと彼が連れていた若者ヘックを同行させることにした。
その道中、家出少女のエルサと出会った一行は、共に目的地に向かうことに。
しかし、彼女を巡りスティーヴたちは荒くれ者たちと対立することとなる。

感想

サム・ペキンパー監督作ということもあって、結構期待値は大きかった本作。
結論としては、地味な良作といった感じでした。
そもそも、本作は哀愁や教訓を感じ取る映画であって、娯楽作のような銃をバンバンと撃つタイプの西部劇ではありません。
そのため、見終わってスッキリ爽快な楽しいものではなく、後になってからじんわりとしみ込んでくる、そういう意味での良作であったと思います。

では、どこにその哀愁や教訓を感じられたのかという話です。
まず「哀愁」の方から。
本作は、年配のスティーヴと相棒ギル、若者のヘックの三人が主な登場人物となっています。
そのため、随所でスティーブたちが老いたことを表すイベントが加えられていました。
例えば、文字を読むのに老眼鏡がひつようであったり、ヘックより早く疲れを感じていたりです。
では、ヘックに比べてワイルドさがないかと言ったらそうでもありません。
ヘックの女たらしで生意気な態度を諫めるために、言葉だけでなく時には拳で分からせる様子は、それまでの人生経験を積んできたからこそできることのように思えました。
これらのエピソードで、味のある演技を見せてくれたのが、スティーヴを演じたジョエル・マクリーとギルを演じたランドルフ・スコットでした。
彼らは、見た目からして年を取っているのは分かるのですが、一方でカッコよさも併せ持っていました。
ヘックに対して嫌味を言ったり、大人げない対応を見せてもどこか親近感を持つことができるのは、コミカルな作風にマッチした彼らの演技があったからこそ。
そんな彼らの別れとなるラストシーンは、切なくも儚いです。
ジョエル・マクリーとランドルフ・スコットの演技があったからこそ、ラストシーンに感じられる哀愁はより強いものに感じられましたね。


次は「教訓」について。
本作、印象的なシーンのひとつに、スティーヴが「自尊心」を大切にするようになったエピソードを語るというものがあります。
この「自尊心」が本作のテーマとも言える重要な要素で、そこに関連してくるのがギルの裏切りでした。
ギルはスティーヴが金を運ぶ仕事の話を聞きつけ、それを横取りしようと目論むわけです。
しかし、スティーヴとは旧知の仲であることからも、分け前を増やすように要求しますが、それは叶いません。
で、結局銃を使った裏切り行為に走るわけです。(返り討ちにあいますが)
この一連のシーンで描かれるのが、ギルの葛藤でした。
「かつての友人を裏切り、金を得るという行為が果たして誇るべきことなのか」という葛藤は、作品の随所で描かれていました。
果てには、共謀者であったペックにも止めるよう説得される始末。
それでも強硬してしまったのは、彼のそれまでの人生が誇りよりお金を優先してきたことの表れだったのかもしれません。
「自尊心」の大切さ、それがひとつの教訓として本作では描かれていたわけです。

ただ、そこで終わってしまうとギルがあまりにも報われない男になってしまいます。
彼が最後に「自尊心」を取り戻すから物語としての面白さがありました。
ひょんなことから命を狙われることとなったスティーヴ一行。
そのピンチにギルが現れる展開はなんとも熱いです。
そこで2vs3の決斗を繰り広げ、敵を倒したものの、スティーヴも銃弾を喰らい倒れることに。(この複数人による決斗もなかなか新鮮で見ごたえがありました)
その彼の代わりに、ギルは金を運ぶ仕事を請け負います。
ここから分かるのはギルはスティーヴから「自尊心」を受け継いだということ。
年を取ってからでも人は変われるということを示しているかのようなラストシーンにはグッと来るものがありました。

余談ではありますが、本作は中盤くらいになぜかエルサの視点に変わり、彼女が荒くれ者と結婚するまでを異様に長く描いていました。
ティーヴたちは完全に空気な状態ですし、なぜあそこでエルサ視点に切り替えたのか謎。
唯一、考えられるとすれば若者特有の先を考えない勢い任せの行動がもたらす結果を見せたかったのではないかということです。
でも、あそこまでじっくり描かなくても良かった気もしますが……
なんだかちょっと中弛み感がありました。


老いた元保安官とその友人の哀愁漂う関係を若者たちを絡めて描いていた本作。
銃撃戦も後半にあるにはありますが、それよりもスティーヴやギルの年の功を感じさせる活躍の方が印象に残りました。
ジョエル・マクリーは次の主演作で、ランドルフ・スコットは本作で俳優業から退いています。
そうして見ると、彼らの演技ひとつひとつに魂を感じられるようでした。