【ネタバレあり・レビュー】三人の名付親 |
ストーリー
西部のならず者ボブ、ピート、キッドは、アリゾナ州ウェウカムの町で銀行強盗をはたらく。しかし、スイート率いる保安官たちにより、キッドは負傷。三人が持っていた水袋も破壊されてしまう。
砂漠へと逃れた三人は、僅かな水しかないことから水場を探して彷徨っていた。
そこで三人が出会ったのは、妊婦が乗る一台の馬車であった。
感想
タイトルそのままに、西部のならず者であった三人が名付け親になるという異色の西部劇でした。本作の原題は『3 Godfathers』
「ゴッドファーザー」なんて聞くと、マフィアのボスなんかを想像しますけど、カトリックでの洗礼時の代父(名付け親)を指す意味もあるらしく、なるほどタイトルに違わない内容でした。
そんなボブ、ピート、キッドの三人が名付け親となるのが作品のテーマなわけなのですが、意外とここに辿り付くまでが長いです。
おそらく107分の本編時間の内、50分くらいにならないと本筋には入りません。(赤ん坊が生まれる→三人が名付け親になるまでの流れを入れたらおそらく1時間超えてます)
では、そこまで何をしているのかというと三人による逃走劇です。
銀行強盗をしたことで、スイート保安官らに追われる身となった三人の過酷な行程を見せていました。
そこで印象的なのが砂嵐のシーン。
スペイン人のピート曰く、"サンタナ"と呼ばれるその砂嵐(作中ではサンタナ将軍の騎兵隊が撒き散らす砂ぼこりと説明)は、端から見ると幻想的で美しさすら感じます。
しかし、三人にとっては体力は奪われるし、前に進みずらいし、馬は逃げるしでいい事なし。自然の美しさを見せる一方で、恐ろしさを見せていました。
そうした美しさと絶望の入り混じった景色は他のシーンでも見られました。
例えば、果てしなく広がる塩湖であったり、遠くに見える山脈であったり、自然が作り出した洞窟であったりなど、目を見張るような自然の雄大さは、同時に無情な現実を突きつけていました。
そんな地獄のような環境を歩く三人ですが、そうなってしまったのは自業自得。むしろ、私利私欲のために町の人々を恐怖に陥れたことを考えると、苦痛を受けるのは当然とさえ言えるでしょう。
しかし、彼らの姿を見ていると応援したくなってくるのですから不思議なものです。
それはおそらく三人が見せる掛け合いなどから個性が見えてくるからなのだと思います。
で、その掛け合いがより面白くなるのが赤ん坊が登場してからでした。
赤ん坊ことロバート・ウィリアム・ペドロ・ハイタワー(三人の名前から取った名前)を我先にと世話を焼こうとしたり、ボブが赤ん坊を「ロバート」(自分の名前)でしか呼ばないと、他の二人がフルネームで言い直したりなど、子煩悩な父親の姿を面白おかしく見せていました。
なにより心に刺さったのが、三人が赤ん坊を守るため、少しでもまともになろうとしていたこと。
自分の荷物はもちろん、銃も捨てて赤ん坊の荷物を持つ彼らの姿は、父性を感じさせました。
それまで生き残ることしか考えていなかった三人が赤ん坊の世話に付きっきりとなり、自分たちの置かれた状況を忘れて没頭するのはコミカルではありましたが、心暖まるものでもありました。
しかし、それで終わらないのが本作の非情な所でした。
最終的に、ピートとキッドは命を落としてしまうんですね。
けれど、キッドからピートへ、ピートからボブへと赤ん坊がつながれていき、ボブが二人の思いを受け継いでいくシーンは感動的でした。
幻覚ではあるものの、ボブが二人の声に励まされ立ち上がる姿なんて今の時代でも通用する熱いシーン。
面白い作品としての王道を築き上げていたと言えます。
ラストシーンでは、ボブがちゃんと赤ん坊を三人の名前で呼ぶようにもなっており、前振りをきっちりと生かす丁寧な作品作りを感じさせました。
三人のならず者が赤ん坊と出会うという異色は設定の西部劇であった本作。
しかし、そこから生まれるのは子を持つことで男たちが地に足をつけるようになる人間味溢れるストーリーでした。
その人間の本質を突いたような内容は、非常に親近感を覚えるもので、今の時代にも通用するものであったと思います。