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【ネタバレあり・レビュー】『荒野の1ドル銀貨』に見る、南北戦争後の南軍兵の扱い

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ジュリアーノ・ジェンマといえば、モンゴメリー・ウッド名義で主演した作品『夕陽の用心棒』(1965)での出世が有名です。
そんな作品と同年公開された作品が今回紹介する『荒野の1ドル銀貨』です。

作品概要

原題:Un dollaro bucato(英題:Blood for a Silver Dolla)
製作年:1965年(日本公開:1966)

監督:カルヴィン・ジャクソン・パジェット
脚本:カルヴィン・ジャクソン・パジェット
主演:ジュリアーノ・ジェンマ

ストーリー

南北戦争終結直後、敗戦した南軍に属していたゲイリー(ジュリアーノ・ジェンマ)は、弟のフィルと西部の町イエローストーンでの再会を約束し妻ジュディの元へ帰る。
西部で暮らすことを決めたゲイリーは暮らしの基盤を作るため、ジュディより一足先に西部へ向かうことにする。
やがてイエローストーンに到着したゲイリーは町の権力者マッコリーから、ならず者ブラックアイを多額の賞金と土地を報酬に捕まえることを依頼される。
それを引き受けたゲイリーであったが、そこにはマッコリーの思惑があった。

感想

ジュリアーノ・ジェンマが主演のマカロニ・ウエスタンはとにかく激しいです。
飛んだり跳ねたりとにかく激しい!
けれど、それはそれで間をじっくりと取る西部劇とは違う刺激があって面白いものです。
銃を手にした男を相手に素手で勝ってしまったり、4人ぐらいの相手を一瞬で片してしまったりとなかなか奇想天外な戦いを見せてくれました。

そんな本作は、序盤からまさかのジェンマが銃弾をモロに受けて倒れてしまいます。
もちろん死んでいたりはせず、奇跡的に1ドル銀貨に銃弾が当たるというミラクルで生き残ります。
そんな穴の空いた1ドル銀貨を弄びつつ、復讐の戦いを見せるジェンマがとにかくカッコいい。
序盤で蓄えていた髭も後半からは剃ってスッキリ。やはりジェンマは爽やかなのが似合います。

髭を剃ったことで人相の変わったジェンマが大胆にも敵の一味に加わったりとスリリングな行動を取るのも見応えがありました。
親玉に正体をバラすシーンでは、影を使って髭を表現するという乙な演出を披露。
監督のカルヴィン・ジャクソン・パジェットのジェンマに対する愛が感じられるようでした。
彼らはのちのち『さいはての用心棒』で再びタッグを組みます。
そんな背景も本作でのジュリアーノ・ジェンマの魅力が発揮させられたからだと言えるのでしょう。

作品に見る南北戦争後の南軍の生き様

南軍への名誉

この作品、冒頭は捕虜にされていた南軍が解放され、その健闘に対する褒賞として銃が渡されるシーンから始まります。
ただ、ここからしていろいろと扱いがひどい。
健闘をたたえてと言いながらも、渡されるのは銃身が極端に短く切り落とされた銃。
それは作中の表現からもわかるように、てんで使い物にならないものでした。
そこから見えてくるのは、北軍は南軍の健闘を称える気なんてまずなく、リンカーン大統領が言ったから従ったに過ぎないということでしょう。
それはこの冒頭以降の南軍の扱いを見ていっても分かることとなっていきます。

南軍が目指すのは西部

ゲイリーと弟のフィルは、北軍から釈放された後、西部を目指します。
ここからも南軍兵士たちの肩身の狭さを感じさせました。
で、その理由は見ていても分かりますが、南軍に対する当たりが強いため。
開拓されて間もない西部であっても仕事がないばかりか南軍というだけで皆が冷たい対応をしていました。
そんな人々の猜疑心を利用したのが悪党マッコリーの存在でした。

制服を着れば南軍

この作品の悪党マッコリーは、他のマカロニ・ウエスタンとは異なり戦闘についてはからっきしです。
変わりに非常にズル賢い。
目障りになったゲイリーの弟フィル(ブラック・アイ)を略奪者といって殺そうとしていたり、ゲイリーを使い捨てにもします。
しかし中でも狡猾なのが、部下に南軍の制服を着させて襲撃を行っていることです。
これにより罪を南軍に擦り付けていました。
とはいえ、恐ろしいのが制服を着てさえいれば世の人々はそれを南軍だと思ってしまうこと。
「勝てば官軍負ければ賊軍」という諺が頭を過る展開でした。(もともと北軍、南軍どちらが支持されていたのかが分かりませんが……)

真のむごさは降伏してから

この作品で最も印象深いセリフが「戦争の真のむごさは降伏してから始まる」というものでした。
これ、本作のドラマ部を象徴するかのようなセリフですが言ったのは名も知らぬおじさんです。
偶然、南部からイエローストーンに到着したというだけで倒れたゲイリーとフィルの処理を任された可哀想なおじさん。
しかし、ゲイリーの命を救うという点では、タイトルの『1ドル銀貨』と同じくらい重要な役割でもあります。
(見る限り)その後登場すらしませんが、超重要なキャラクターだと思います。

南軍の誇り

作中、基本的に一匹狼でやりたいようにやるゲイリーですが、唯一味方になるのが敵の一味にいた元南軍の青年です。
この青年は、敵一味にマークされているゲイリーに変わり、命を狙われている男を救うという行動を起こします。
その理由は、ゲイリーが南軍の誇りを説いたからでした。
敗戦をしても理不尽な扱いを受けても決して腐らず、越えるべきでない一線を画す。
そんなゲイリーの生き様は誇り高さを感じさせました。